
この山は信仰の対象でもあり、この辺の寺院はみな山の方向を向いて建てられています。いわゆるホーリーマウンテンです。アカ族、リス族、カレン族など、山岳民族が多く暮らす地域で、高床式や土間の住居など、都市部の人々とはその暮らしぶりも大きく異なります。色鮮やかな民俗衣装やアクセサリーを身につけ、話す言葉もタイ語とは異なり、それぞれ独自の言葉で話します。チェンダオは都市部から離れたその落ち着いた雰囲気と美しい景色から、欧米のロングステイヤーにも人気のリゾートでもあります。


人々の暮らす住居はとても質素です。都市部の生活に慣れた目からは、一見納屋か作業小屋かと見間違えますが、家です。食べ物は畑や果樹や家畜たちが与えてくれます。生活に必要な日常品は竹や葉や木を使い、自分たちで作れるものは作ります。貧しいというよりも(もちろん裕福ではありません)家は雨露をしのげればそれで十分という大らかさを感じます。子供たちは歓声をあげながら道端で元気に遊んでいます。けっして困窮しているという印象はなく、別種の豊かささえ感じます。多くの家の軒先にはバイクかピックアップが。庭先には巨大なパラボラアンテナが立っており、隔絶した生活でもありません。

ちなみにこの温泉、当初は川に流れるままで村の人々が洗濯に利用するくらいだったそうですが、こちらに暮らす日本人たちが、肩まで浸かれる温泉を、と役所に掛け合い許可を得て自ら土管を整備して出来たものだとか。さすが温泉好きな日本人。野趣溢れる見事な露天温泉です。
私たちが行ったのは2月14日のバレンタイン・デイ。タイはこの日はマカプチャー、万仏節です。仏教では重要な日で国の祝祭日になっています。歌舞音曲も控え、静かに過ごしお酒も飲んではなりません。実際この日はお店でもアルコールの販売は禁止です。
禁止ですから事務局直営の売店などでも「本日はお酒の販売はありません」と貼紙がされていました。とはいえフェス会場の地元の人々が出す屋台では普通にビールも買えました。自粛の雰囲気は特になく、いつもどおりの野外フェスの風景です。タイは人口のほどんとが敬虔な仏教徒ではありますが、山岳少数民族の人々の宗教は精霊信仰です。もしくは自立支援、職業支援の名目で入って来た宣教師の影響でキリスト教を信仰する人々です。宗教の異なる人々にしてみれば、重要な仏教行事もさして影響ないのかもしれません。たとえ国の祝祭日とはいえ、その辺はタイの大らかさでしょうか。
野外フェスのほうは、日本から来たアマチュアのようなフォークシンガー(日本語で歌っていました)がいたかと思えば、強烈なリズム隊で会場をグルーヴの渦に巻き込むダブ・レゲエバンドがいたりと玉石混淆。朝コーヒーを飲むため私たちにお湯を分けて貰えないかしら? やってきたのは隣に一人で小さなテント張っていた可愛らしいおばあさん。オーストラリアから来たそうで、話をしてみると出演者なのだとか! 「今日ステージで唄を歌うの。よかったら聴いていってね」とのこと。コーヒーを飲み終わるとリコーダーを取り出し、一人リハーサルを行っていました。一流どころの名うてのミュージシャンからゆる〜い感じのおばあさんまで、なんとも気持ちの良い山の麓の野外フェスでした。(Jiro Ohashi)