2016年12月31日土曜日

新たなものづくりにむけて - step by step

今年は、久しぶりに新しいブランドづくり、ものづくりで慌ただしく明けて暮れた1年でした。

前半は、思いがけない問題に悩まされ、時に道に迷うこともしばしば、まさに産みの苦しみの期間でしたが、eavamらしい独自のものづくりができました。
しかし、それぞれそこに真摯に向かい合ってこれたことの証でしょうか、そして秋のバンコクにおけるバーンロムサイ展でのブランドデビューを皮切りに、ベトナムの雑誌 t-potジャーナルなどの取材、市内に新設したスペースでのワークショップシリーズ、イベント出店、そしてチェンマイデザインアワードのバッケージ賞受賞など、少しずつお客様からの手応えをしかと感じる場面が増えてきました。

特に嬉しかったのは、まず、ワークショップのスタートです。
製品の本当の作り手であるタイ人スタッフ達自身が、普段の慎ましさから一転、晴れやかに積極的に企画・運営し、感じ、そして作る手から発する本物の言葉によってタイの人たちの中に共感の輪を広げながら、自らの仕事に改めて愛情と喜びと誇りを深めたこと。
そして、タイも日本もなく、eavamという「チーム」でチェンマイ・デザイン・アワードを受賞したことでしょうか。


作ることには長けていても、売ることではまだ手探りの私たちですが、今年得た勇気と手応えをもって、来年は更により良い誠実なものづくりを続け、またそこに隠れている自然や、関わる多くの人たちの生き方を伝えていけたらと思っています。それが、世界や生命の美しさを寿ぎ、またそれを形にしたひとしずくであるように。

年明け一番最初の大きな挑戦はNAPへの出店です。チェンマイにお住まいのみなさま、またいらっしゃるみなさま、NAPにてお会いできることを楽しみにしております。(Asae Hanaoka)

2016年11月16日水曜日

eavam、実店舗にも ー eavam in real shops !

プミポン国王がお隠れになり、まだ悲しい気持ちの中にあるタイ。
それでもより良く毎日を生き、少しでもタイという国がよくなるようそれぞれが努力することこそ、亡くなった「大きなお父様」の願いにそうものになるはずですと、静かに毎日の仕事に励むeavamのスタッフたちです。
とはいえ、政府のアナウンスによる30日の服喪が明けても、まだ胸や肩には、黒いリボンが寂しい蝶のように留まっていて、その姿にそれぞれの胸に秘めたものが感じられるようです。

さて、すっかりご報告が遅れてしまいましたが、9月下旬から10月上旬にかけて行われたバンコクのBOY RIKYUのバーンロムサイ展、RIKYUのスタッフの方がた、バーンロムサイのボランティアの方々の見事なお客様へのサポートもあり、おかげさまでお買い上げくださった方へのプレゼント用アメニティやモロッコのクレイ・ガスールのmideltシリーズサンプルは、サンプルがたった1包残っただけでした。

実物のお披露目ともなった、仕覆風の包みと純白の磁器の入れ物が美しいアルガンバームのsumimou 03とラベンダーの香りのoulmes 03も、kamakura setも完売というとてもありがたい結果となりました。
イベントの影響でしょうか、私たちのことを知ったお客様がたが、実物を見て見たいのだけれど? ひきつづき使いたいのだけれど、どこで買ったら良いの? 寒季になったのでチェンマイへ行くけれど、どこで買えるのでしょうか? などなど、お問い合わせをくださるようにもなりました。

そこで、あらためてタイ国内での販売店をご紹介いたします。
どのお店も、個性的で素敵な場所です。ぜひお運びください。

お近くにお店がない場合、お忙しい皆様は、eavam.com オンラインショップにてもご注文を承っております。タイ語はもちろんのこと、日本語、英語での注文も可能です。

チェンマイもロイクラトーンが終わり、心地よい寒季が到来しました。
当初は多くが延期・中止されていたイベントも、むしろ経済を沈滞させないことこそ王様が喜ばれるのではないか?という声もあがり、多くが再開/仕切りなおしとなりました。
想いを新たに、いよいよ寒季ならではのチェンマイは様々な催しに明け暮れるシーズンが始まります。
eavamもいくつかの素敵なイベントに参加する予定です。
こちらでもお会いできることをスタッフ一同、ちょっぴりドキドキ緊張しつつ、お待ちしています。
(花岡安佐枝)

・・・・・バンコク・・・・・
【 MUAK Hat & Life style shop 】

住所:49 Soi Sukhumvit 49 Sukhumvit Rd(49 Terrace 1F) Klongtong Wattana 10110
Tel :095-246-6485
営業時間 9:00 - 17:00 (毎日営業)


取り扱い品:
midelt 103(モロッコのクレイ・ガスール)
adatepe 102(エクストラバージンオリーブソープ)
sumimou 103(アルガンソープ)
kamakura set b (クレイ、バーム、ソープのトライアルセット)




・・・・・チェンマイ・・・・・
【 hoshihana village shop 】

住所:211 Moo 3 T.Namprae, A.Hangdong, Chiangmai 50230 
Tel :063-158-4126 
Email:info@hoshihana-village.com
http://www.hoshihana-village.com/
営業時間 9:00 - 17:00 (毎日営業)

取り扱い品:
midelt 103(モロッコのクレイ・ガスール)
adatepe 102(エクストラバージンオリーブソープ)
sumimou 102(アルガンソープ)
oulmes 03(ラベンダーアルガンバーム器入り)
oulmes 103(ラベンダーアルガンバーム レフィル)
sumimou 03(アルガンバーム器入り)
sumimou 103(アルガンバーム レフィル)
kamakura set b (クレイ、バーム、ソープのトライアルセット)
hoshihana village限定アメニティセット

【 Studio 3 】

住所・連絡先:35 Chiangmai - Lumphun T.wat gate, A. Muang Chiang Mai 50000
Tel :097-943-7039
https://www.facebook.com/aeeeeeeeeeeen
営業時間: 10:00 - 17:00 営業日:金・土・日

取り扱い品:
midelt 103(モロッコのクレイ・ガスール)
adatepe 102(エクストラバージンオリーブソープ)
sumimou 102(アルガンソープ)

kamakura set b (クレイ、バーム、ソープのトライアルセット)

2016年9月26日月曜日

eavam、バンコクへ ー eavam in the city of angels

よちよち歩きのeavamですが、おかげさまでとても個性的な場所での取り扱いが少しずつ始まっています。
バンコクでは素敵な日本人カップルがデザイナーを務めるブランド「MUAK」のセレクトショップが第一号のお店となってくださいました。
そして期間限定ですが、現在スクムビット ソイ24にあるヘアサロン「BOY Rikyu」のギャラリーにて行われている「バーンロムサイ展」でも、バームとソープ、そしてトライアルやお土産、プレゼントにもぴったりのミニセット(クレイ、ソープ、バーム)が販売されています。


今回は、この期間限定のイベントのご紹介です。
このイベント、まず会場になっているヘアサロンのギャラリーからして、なんとも格別なのです。
「BOY Rikyu」は、日本に拠点を持つとてもコンセプチュアルなヘアサロングループですが、入社したスタイリストがまずしなくてはならないのは、桂離宮についてレポートを書き、現地へも行くこと。その後も技術をたゆまず磨くことはいわずもがな、そこに表現力や創造性を織り込むために、常にいろいろなお題が投げかけられるのだとか。まるで美意識と技術の車の両輪を大切にするさまは、同朋衆のようです。こんな素敵な人たちが働く場所にふさわしく、BOY Rikyuの空間自体も、素晴らしく個性的で美しいものです。
古いモダン建築を解放的にリノベートした真っ白な空間で、ミラースタンドや道具類をしまう什器はオリジナルデザインならば、照明やドアノブまで細部の隅々まで丁寧に吟味されて、清々しい光と空気にあたりは満ちています。
その中を清潔なエプロンを掛け、すっと軽やかに走りながら立ち働く人たちを見るのは胸がすくような気持ち良さがありますし、彼ら、彼女らのお客様への気配りは細やかで優しいものです。
この素敵なヘアサロンにさらに特別さを与えているのは、今回のイベント会場にもなっているギャラリーが併設されていることでしょうか。
サロンもアートディレクターの方のネパールの写真、桂離宮とチョムスキーと谷崎潤一郎の本が隣り合っているラディカルな本棚などなど、それだけでただならない空間なのですが、天窓から射し込む自然光が印象的なギャラリーは、まるで空気清浄機のように、サロンを一層心地よく特別な空気を醸成する働きをもっているようです。

そんな透明感あふれるギャラリーでバーンロムサイ展が開催されているのですが、その直前の幾つかの幸運な出会いとセレンディピティが、私たちeavamのhosihana villageアメニティのプレゼントとeavamのラインナップの販売という形で、この場に加わることができることになったのでした。

そもそも、私たちがバーンロムサイと関わりを持つことになったのは、hosihana villageに初めて泊まりに出かけた時、とあるスタッフの方がバーンロムサイの子供達のクリスマス会に招待してくださったことがきっかけですが、それにしてもその時には今のこの結びつきは想像だにしないものでした。
eavamは、天使博士と呼ばれた神学者トマス・アクイナスが用いた言葉にちなんだ名前ですが、普遍的でありながら常に変化が起き続ける天使の居場所という意味があります。
実はバンコクも、タイ語ではクルンテープと呼ばれ、天人の都を意味しています。
eavamのミニマルで静謐なイメージとカオティックで騒音に満ちたバンコクのイメージは一見ミスマッチなようですが、その騒音の狭間には、実はRIkyuのように清々しくも活気に満ちた清廉な場所がいくつも隠れていて、そこには天使がそっと身を潜ませ、人々の暮らしに寄り添うのにぴったりのような気がします。
今回、私たちにこの機会を与えてくれたのも、そんな優しい天使のおかげなのかもしれません。
(花岡安佐枝)

<BOY Rikyuでのバーンロムサイ展情報>
【会期】
2016年9月22日(木)-10月4日(火)
バーンロムサイで作られる、洋服やアクセサリー、古布財布、そしてeavamのバームなどが販売されています。
また、1500バーツ以上をお買い上げの方には、eavamがhoshihana village(バーンロムサイが運営するリゾート)に提供しているアメニティ、お買い物をされた方全員にeavamのクレイのトライアルサイズをプレゼントしています。
バンコクにお住まい、またバンコクにいらしているみなさま、是非、ご来場ください!

【営業時間・定休日】
9:30-18:30(日曜-木曜)
9:30-19:00(金曜、土曜)

※10/4最終日のみ17:00まで
※水曜定休(会期中9/28は休み)
*売り上げは、両親と暮らせない子供たちのホーム、バーンロムサイの運営に用いられます。

【会場】
Rikyu Studio 2.0
45 Sukhumvit 24,Klongton,Klongtoey,Bangkok 10110
http://boyrikyu.com/jp/

電話番号:02-115-5778

【バーンロムサイウェブ イベント情報】

http://banromsai.jp/information/?page_id=348

2016年8月3日水曜日

溶けやすいコールドプロセスソープと付き合うには(後編) 理想のソープディッシュ  our  eccentric soap 2

雨季が始まってそろそろヒト月が経ちます。
ダムの水が徐々に増加に転じているというニュースも流れ、まるで乾燥中のガスールのように乾いてひび割れた近所の貯水池の底も柔らかなぬかるみに戻って水たまりもでき始め、水鳥たちが集まるようになりました。

eavamの敷地でも乾ききって黄色くなっていたのが苦しい夢だったかのように庭や畑も緑が勢い良く湧き上がってきて、スタッフたちは休み時間や帰宅前には食材にするカラスウリの若い蔓やニガナや空芯菜摘みに精を出しています。
庭師のバーンさんは三日にあげず草刈りに追われています。嬉しい命の水ですがなにしろ田舎のこと、草があまりに茂ればサソリや蛇まで出てきてしまうため、草刈りは切実な作業です。

そんな私たちの頭上には、雨に洗われて空気が澄んだおかげで日の光は強烈になったため、遠くのスコールの束や積乱雲が白銀色に輝き、その反射光までも地上に降り注ぐのであたりには不思議な光が満ち、いたるところ神々しい気配が満ちます。
旱魃の続いたこの2年間、乾きとそれにまつわる不安に悩まされたぶん、水や土、太陽、植物、自然の力と尊さを改めて感じずにはおれません。

かくも美しく豊かな恵みを与える優しい潤いの雨季ですが、私たちの石鹸にとっては少しだけ悩ましい季節です。
もちろん、清潔な潤いを与える効果は一年を通していつも頼もしいものですが、前編で書いたとおり自らの保湿成分によって柔らかくなってしまう可能性が生じるのです。つまり石鹸の「世話」を怠ると豊潤な雨季の空気は石鹸の溶けやすさを増してしまいます。
そこで今回はちょっとの工夫で、その悩みをいとも容易く解決する方法をご紹介できたらと思います。

まず一番大切なことは「ソープディッシュの選び方」です。
なぜならソープディッシュも、その形によってはソープの溶けやすさを早めてしまうものがあるためです。

まず、コールドプロセスには合わないタイプを確認します。

お皿の底に穴が空いているもの:
穴から石鹸に残った水はそこから落ちる仕組みですが、ソープとお皿が接する面では、ソープから水気が逃がせません。コールドプロセスソープならずとも、溶けてお皿にソープが密着したり、穴がふさがって水切りができないケースがままあります。
ホットプロセスで石鹸分の比率が高い、溶けにくく固めの石鹸向きです。

スポンジでできているタイプ:
水切りを良くすることがコールドプロセスソープを気持ち良く使い切る「きほん」ですから、水をたっぷり含んでしまうスポンジタイプのソープディッシュも残念ながらマッチしていません。

コールドプロセスソープを上手に保管する基本は、一にも二にも水気を素早く切って、外に飛ばすことです。
この条件と、上に挙げたソープディッシュを比べると、なんとなくコールドプロセスソープに最適な条件が見えてこないでしょうか?

それは、
・ソープとお皿の接する面積が出来る限り小さいこと。
・水気をソープの周りに残さないこと。
つまり・・・
*ソープを、面よりも小さな線や点でソープを支える。
*素材は吸水性がないものが良い。
*極言すれば、限りなく宙に浮いたような状態にするのが最善。

という要素です。

限りなく宙に浮いたような・・・などと書くとまるで荒唐無稽ですが、とにかく浮かせられれば 良いのです。
例えばステンレスのワイヤータイプの石鹸を浮かせるソープディッシュならば、その条件を満たせますし、入手も簡単です。
実際こうしたタイプのソープディッシュでadatepe102(エクストラバージンオリーブソープ)を綺麗に使い切っているお客様もいらっしゃいます。

そんな目であたりを見回すと、意外に身の回りにはソープディッシュに見立てられるものがたくさんありそうです。

例えば・・・
お猪口など小さな器
(あまり高さがないものがオススメ。石鹸が小さくなってきたら器のサイズを変えましょう。ちょっとずらしてのせて、器の中に湿気をためないようにするのがコツ)

・クッキーの抜き型
(シンプルな形にすればクールになり、動物や星の形ならば小さな子にも楽しいしつらえになります。石鹸が大きなうちは縦置きにすると、より効果的です)

・バネやゼンマイ
(あまり小さなもの、繊細なものをソープにくっついてしまいますのでご注意を)

・珊瑚
プーケットの海で拾ってきた珊瑚に載せていたことがあるのですが、大好きな服飾デザイナー、ヨーガン・レールさんがこの方法を提案していることを知った時にはとても嬉しくなりました)

ソープディッシュも便利でインテリアとして楽しいものですが、身近なお気に入りを見立ててみるのも、物を増やさずお気に入りのもので水回りをシンプルにまとめる方法ではないでしょうか。

それからもうひとつ大切なこと。
石鹸を置く水回りをさっぱり風通しよくしておくことも肝心です。
換気が難しいユニットバスのような密閉性の高い洗面所の場合は、入浴後、スクレイパー(水切りワイパー)などで壁や床の水を取り除いてしまうのも、雨季の湿気・カビ対策も兼ねた便利な方法です。ついでにmidelt 102(ミデルトのガスール) http://eavam.com/clay/midelt102.html で浴槽をすべすべに洗い上げ、使用済みのタオルで残った水滴を拭ってしまえば、さらに完璧でしょう。コールドプロセスソープの魅力的な気難しさとソープディッシュの見立てをきっかけに、創意工夫の眼差しを縦横にめぐらせて、楽しく美しい水回りができますように。

eavamの石鹸たちの詳細はこちら
エクストラバージンオリーブオイル100% adatepe 102 http://eavam.com/adatepe102.html
肌がもちもちするアルガンオイルたっぷり sumimou 102 http://eavam.com/soap/sumimou102.html

写真は我が家の石鹸の様子。タイの家は複数シャワールームが多いので、水切れの良いステンレスホルダーの他にも、クッキー型、珊瑚など身の回りのものも積極的に見立てて使っています。クッキー型は内側が密閉状態になると石鹸が一部蒸れてしまうので、少しずらして使います。
クッキー型にはたくさんの種類があります。丸い型は石鹸を立てておけるので、石鹸をより良い状態で置けます。動物や花やクリスマスツリーの型などにすると、小さな子にも石鹸の「世話」を楽しめるのではないでしょうか。
(花岡安佐枝)

2016年6月10日金曜日

溶けやすいコールドプロセスソープと付き合うには(前編)  our  eccentric soap 01

非加熱、非塩析で、ひと月あまりの時間をかけて作るコールドプロセスソープは、洗浄という石鹸本来の働きはもちろん、新鮮な植物オイル本来の微量成分の効果や香り、そして何よりたっぷり含まれるグリセリンによる保湿効果が特徴です。

そうして作った私たちのマルチソープシリーズは、7%強のグリセリン分が含まれています。
一般的な石鹸に含まれるグリセリンの量は1%程度、多くても2~3%ですから、その量の多さは贅沢なものです。実際まだコールドプロセスが日本であまり知られていない頃、成分分析に協力してくださったメーカーの方も、後から添加したのでは? と驚くほどでした。

とはいえ、そもそも一般的なホットプロセスのソープは、石鹸を硬く溶けにくく長持ちさせるために塩析を行い、グリセリンなど、洗浄力の元である脂肪酸ナトリウム(石鹸分)以外の成分を石鹸から追い出すのですから、製法が持つ根本的な目的が異なっており、オイル本来の性質を楽しんだり、美容効果を目的とするコールドプロセスソープとは比較するのは筋が違う話とも言えます。
用途や目的によって使い分ければ、奥深く多様な石鹸の性質を楽しむことができると思いますが、とはいえ「石鹸」「ソープ」という名前により、無意識に同じように扱ってしまうのもまた現実でしょう。

もしも、なんとなく普段の石鹸と同じように私たちのマルチソープを使ってしまうと、必ず起きる不都合なことがあります。
初めてコールドプロセスソープを試した方ならば必ず経験する、そして私たちのマルチソープにも起きることです。

それは・・・
「あっという間に小さくなって使い切ってしまった」
「ソープディッシュに乗せて置いたらジェルのようになってドロドロに!」
「表面が糸を引いている!」
つまり、<とても溶けやすい>ということです。

なぜ、私たちのマルチソープに限って溶けやすいのでしょうか??

まず最大の原因は7%とたっぷり含まれるグリセリンです。
濃度の高いグリセリンは周囲の水分を引き寄せる性質があるため、チェンマイの雨季や日本の梅雨のような湿度が高い季節、外気に触れると空気中の水分を吸収し、表面にうっすらと汗をかくことさえある程です。
汚れを落としながら潤いも保ちたい洗顔時にはありがたいのですが、使っていない時にはちょっとハラハラしてしまう性質です。

もうひとつは、原料として美容効果を重視しているため、ソープにすると比較的柔らかいものになる油脂を使っていること。
例えば、エクストラバージンオリーブオイルは非常に柔らかい部類になり、アルガンオイルもどちらかといえば柔らかめに仕上がります。
様々な植物オイルを見渡してみると、リッチな手触りと美容効果があるオイルは比較的柔らかく溶けやすくなる傾向があるようです。
もちろん、なかにはココナッツオイルのように、石鹸にすると泡立ちがよく硬く締まり溶けにくいものに仕上がるものもありますが・・・。

こうした石鹸や油脂の性質から私たちのマルチソープの性質を読み解くと、アルガンソープのsumimou 102http://eavam.com/sumimou102.htmlは、ココナッツオイルも含むので、肌にハリを与えるといったリッチな効果がありつつも、コールドプロセスソープとしては、比較的溶けにくく長持ちだといえます。
肌への効果も抜群で、コールドプロセスソープを使い慣れない人でも使いやすい入門用とも言えるかもしれません。

そして少々悩ましいのはエクストラバージンオリーブオイルのみを使ったソープ、adatepe102です。
なぜなら、石鹸を作れば溶けやすいオイルの代表格であるオリーブオイルだけで作っているのですから・・・。
それでもオリーブオイル、しかも生産者も生産地も明らかで、安全で上質、食べても香り高く美味しいエクストラバージンオイルで作ったソープの肌への優しさといったらクリームで肌を洗ったよう。
デリケートな肌の方、赤ちゃんやお年寄りなど肌が荒れやすい方のためにも私たちはどうしても、このソープを作りたかったのです。http://eavam.com/adatepe102.html

そこで今回は、この少しばかりエキセントリックなadatepe102(エクストラバージンオリーブソープ)でも、最後まで楽しく快適に使い切れるよう、またもしも溶けかかってしまったソープでも無駄なく使う方法をご紹介します。

糸を引くようになった場合:
ソープの外側が少し過剰に水分を吸収し、石鹸分とグリセリンが溶けかけている状態です。
とはいえ、ソープ全体が水分を吸収してはいませんので、溶けかけた部分を減らしたり乾燥させることで、固型ソープとして最後まで使い切る余地があります。

*使い方
乾いたミトンや手でそうした部分を拭き取って、これ以上水分が全体に広がるのを防ぎます。
拭き取った分は、軽く水でぬらし、そのまま洗顔やボディにお使いください。

ジェル状になってしまった場合:
ソープ中のグリセリンが水分をたっぷり吸収して溶けてしまった状態ですが、ソープとしては品質も用途にも変わりなく使えます。
例えば、eavamの社内では、製造工程で出る整形によるソープの削くずなど製品化できないものを、あえてリキッドソープにして、スタッフの入室前の手の洗浄や設備の清掃、リネン類の洗濯に使用しています。

*使い方
1)ディスペンサーなどに移し、少し水を加えてリキッドソープに。
(ジェルの固さによっては水を加えても構いません。また精油を加えると香り付きのリキッドソープを楽しめます)

2)重曹を加えて練り、ディープクレンジングソープに。
ジェルの1/3程度の重曹を加え、クリーム状に練ったら、乾燥を防ぎながら保管します。
軽く泡立ててから小鼻など顔の角質や皮脂、肌理が気になる部分に軽く塗り洗い流します。肘や踵などにも(泡立てても泡立てなくてもお好みでかまいません)。
*ちょっと贅沢ですが、キッチンソープとしても優秀です。

3)モロッコのハマム風ボディクレンジングに。
モロッコでは、お風呂というと蒸し風呂のハマムが一般的ですが、そこではガスールやブラックソープと呼ばれる黒いジェルソープが洗浄料として用いられています。
この黒いジェルソープの原料は、食用のオリーブオイルを絞った後のポマス油です。
一方、私たちのソープはフードクオリティの中でも最も上質なものですから、これをハマム用のソープに見立てるならば、モロッコ風ボディクレンジングとしては極上のものと言えそうです。

*ハマム風ボディクレンジングの方法
ハマムとは、モロッコや中近東の蒸し風呂のこと。女性たちにとっては社交と美容の楽しい場です。
ここでは、ジェル状のエクストラバージンオリーブソープをクリームのように肌に塗って洗浄とボディパックを兼ねた身体の洗い方をします。
方法はとても簡単です。バスミトンや手にジェルソープを手に取り、泡立てずにそのまま肌に塗ってから、マッサージしながら洗い流すだけです。

日本では石鹸は泡立ててその泡で洗うものというイメージが強いと思います。ですがオリーブ油で作る石鹸分は、泡立ちがあまり強くないのですが、洗浄力はしっかりありながら、オイルの主成分であるオレイン酸が肌に滑らかな手触りを与え、保湿もするという特徴があります。実際には石鹸分を肌になじませれば、泡立ちにこだわらなくても、肌を洗い上げることができます。ハマム式のオリーブ石鹸の使い方は、オリーブオイルの性質を熟知したとても合理的な方法とも言えそうです。
 
石鹸、ソープの性質というと一般的な釜焚き方法のものを思い浮かべがちですが、これでコールドプロセスソープの個性を知ってくださったら、そして素晴らしい使い心地はもちろん、ちょっと気難しいところも楽しめると思います。海岸に流れ着いた大理石の小石のような、丸いフォルムの石鹸も清楚で素敵ですが、溶けた石鹸の使い方もなかなか悪くないと思っていただけたらと、思います。

次回は身近にあるもので、使い心地は抜群ながら気難しく溶けやすい極上石鹸「adatepe 102」(エクストラバージンオリーブソープ)を最後まで、紙のように薄く、5バーツ玉のように小さくなるまで使い切る方法をご紹介します!(花岡安佐枝)

2016年5月30日月曜日

ガスールの季節がやってくる  summer, ghassoul, morocco

ぱらりと本のページが新しく開かれたように、今年の雨季が始まったチェンマイ。
地上のすべてが花や土の香りを含んだ柔らかな湿度と涼しさ、澄んだ空気にたゆたうような心地をうっとり味わっています。
それにしてもここに至る数週間は、連日最高気温が40度を超える思い出すのも辛い毎日でした。
湿地の泥もひび割れる乾きのために、ある時期から蚊がいなくなってしまったのに思い出したのは、以前モロッコのマラケシュで真夏に仕事をしていた時の40度を超える昼下がりのことです。

そんなマラケシュの暑い午後は、人は分厚い土壁に漆喰の壁がひんやりとした薄暗い部屋の奥で、午睡の中で暑さをやり過ごし、猫や犬や家畜たち、人の近くにいる動物たちはオリーブの木陰で眠りますが、それだけではありません。鳥たちも鳴くのをやめて木陰に隠れ、ハエや小虫も飛ぶのをやめるほど。おかげで外は生きるものの気配が消えて恐ろしく森閑とし、ただ太陽だけが明るく空気が発熱する沈黙の午後がやってくるのです。
かつて、ベルベル人が都を築いだスペインのアンダルシア地方の詩人、ガルシア・ロルカが書いた詩『角突と死』で繰り返される、午後の5時の情景の中の ガラスとニッケルの光ばらまいた酸化物の午後です。(スペインの昼間の時間帯は緯度の違いから日本より2時間くらい後の感じです)

実は、チェンマイの夏(2~4月)とマラケシュの夏(68月)はいずれも内陸の盆地であり、サバナ気候の乾いてとても暑くなる感じはよく似ているのですが、マラケシュのあの暑気と沈黙の午後をチェンマイで体験するのは初めてのことでした。
本来チェンマイでは最高気温が36度に届くのも珍しいこと。以前私たちの会社が始まったばかりのエアコンもない、古いチークのタイ式の家で仕事をしていた頃には、3時までに気温が36度に届いた日は午後の休憩時間を15分から30分に延長するという、牧歌的な就労規則があったほどです。そんな日に限って行商のアイスクリーム屋さんが庭にやってくるので、私たちは甘くて冷たいお菓子を食べながら、ラムヤイやマンゴーの木陰でいつもより長い休憩時間をのんびりするのが常でした。

今は建物はコンクリートになり、スタッフの人数もお客様からの注文も増えたため、やむなくエアコンの導入も何年か前から行い、アイスクリームの差し入れはあっても、休憩時間の延長もなくなりましたが、それにしても今年の連日の40度越えは、室内の気温が下がらず、就労環境としても石鹸やバームの製造条件としてもあれこれ工夫が必要な、大変悩ましい日々でありました。
この焼けるような毎日のある日、チェンマイにもあの ”生き物たち全てが息を潜め、庭が沈黙する午後” がやってきて、マラケシュのあの午後を思い出し、彼の地はまさに私たちがなんとかしのいだ暑い季節がまさしくやってくる頃、その炎天下の中ガスール作りの最盛期が始まることを改めて思ったのです。

それにしてもモロッコでは、わざわざそんな酷暑になぜガスール作りをするかといえば、その気候が上質なガスールを効率よく作ってくれるからです。

その理由をいくつか挙げるならば・・
*そのままでは水に溶けないガスールの原石は、天日干しをすることで自然に細かく砕け、原石の中に水が入り込む隙間が大きくでき、それで初めて水に溶けるようになるから。さらに、天日干しも寒暖差の激しい夏の方が効率が良いから。
(固形のガスールを作るには、まず原石を水に溶かした液を作り、ろ過し、原石の中に含まれる硅素の結晶などを取り除かなくてはなりません)

*吸水性が高くなめらかに溶ける固形ガスールを作るには、できるだけ早く溶かしたガスールを乾燥させなくてはならないから。
早く乾燥することで、固形の中に沢山の小さな空洞ができ、ガスールの高い吸水性をさらに活かせるようになるため。
(気温が下がってきた時に作った固形ガスールはゆっくりと乾燥するので、中の密度が詰まり、水の吸収がゆっくりで、なめらかな手触りになるのに時間を要します)

こうした原石や原液の乾燥のためには、時には80度以上まで熱くなる石のテラスや、暑い風、強い日光が3つながらに欠かせないのです。強烈な自然の力を借りるためとはいえ、また、年々積み重ねてきた知恵をもとに製造の設備が効率化されているとはいえ、暑い季節に大変な作業をたゆまず続ける、モロッコのガスール作りに携わる人々の尽力には、感謝するよりないと改めて感じます。

「アシア(モロッコでの私の呼び名で、ガスール鉱山の採掘会社で働く女性がつけてくれた)、君が持っているガスールをちょっと分けてくれないか?」
「いいよ?」
「ついでにアルガンソープもあると嬉しいなぁ。母さんや妹たちが好きなんだ。肌が柔らかくなるそうだよ」

マラケシュで仕事をしていた頃、ガスール工場のスタッフのお兄さんたちの帰宅際によくした会話です。

ガスールを作るプロたちが、なぜチェンマイからきている私から、わざわざガスールとアルガンソープをもらうのかといえば、製造現場には当然ながら在庫管理があって、自分たちが作っているとはいえども、ガスールを工場から持ち出すには色々手続きが必要なため。もちろんモロッコならば市場でも安価にガスールが入手できますが、自分たちが作るガスールの質を思えば、それは満足がいく使い心地ではありません。そこへ私物のガスール(しかも自分たちが丹精した)を長期滞在のために数キロ持ってきているのを知っているからです。

そして、アルガンソープです。
最近はモロッコでもアルガンオイル入りの石鹸類は数多くありますが、彼らは私たちeavamのものづくりの仕方も、どれだけ上質なアルガンオイルがたっぷり入っているかも、その素敵な使い心地も知っています。加えて彼らのお母さんや姉妹たちがこの石鹸の大ファンという、つまり美容には一家言あるモロッコの女性たちのお墨付きでもあります。ゆえにモロッコがアルガンオイルの故郷だとしても、これだけのアルガンソープが私の旅行鞄の中にしか無いことを知っているのです。
というわけで、ガスールとアルガンの本場、それこそメッカかつその中心たる神殿とも言えそうな場所で、チェンマイ経由で遠路はるばる故郷マラケシュへやってきたガスールと、素材の良さをさらに魅力的に磨いたアルガンソープが東洋人の私からベルベル人の彼らへ手渡されるという、ちょっと楽しい逆転が起きるのでした。
こんな逆転が楽しく思えるのは、マラケシュからはこの上ない質の素材を作って送り、それを受け取ったチェンマイでは、手の仕事によって、その素材にふさわしい美しい質と形とを作り出すという、物を介して良い物を作ろうとする気持ちが往来しているからでしょう。
いずれにせよ、強い陽射し、熱気、乾燥、皮脂や汗、皮膚感覚を憂鬱にするものが多い中で、私たちのガスールやアルガンソープは肌を心地よく清潔に整え、ハリを与えることは、これらの素材が生まれた国でもお墨付きです。少し前までは忘れかけられ、ちょっと怪しい土産物や古臭いものと思われていたガスールやアルガンオイルが、こうしてリアルに再発見される一助になれたのは嬉しいことでもあります。

ガスールとアルガンの故郷・モロッコはいよいよ夏、そしてチェンマイは乾きは癒えたものの、陽射しが湿気のべたつきが肌を刺激する悩ましい雨季。
うっかり日焼けをして肌が少しひりつく時には、ガスールパックで冷やしながら鎮静、肌に明るさやハリが欲しい時にはアルガンソープでの洗顔がおすすめです。
また、ガスールは匂いを吸着する働きがとても強いので、ボディソープとして使うとデオドラント効果も抜群です。
さらに、シャワーを浴びられない時や外出先などで、薄めたガスール水(コップ一杯の水にガスールタブレットを1欠け:ティースプーン1杯程度の量です)でコットンやハンドタオルなどを濡らし、耳の裏や首筋、うなじ、腕など汗がべたつくところを拭うと、アフターサンケアを兼ねたリフレッシュナーとして肌に爽やかさを取り戻せます。
肌を爽やかに保ちたい季節、 ガスール(midelt 102アルガンソープ(sumimou 102がきっと役立つはずです。

写真:
上:チョコレートのように美味しそうなガスールの原石。中央のロウのような光沢があるものが掘ったばかりのものですが、このままでは水に溶けません。これを天日に晒し、乾燥させると左下の原石のように層状に割れはじめ、このようになって初めて水に溶けるようになります。

中:マラケシュのガスール工場で溶かしたガスールをポンプでフィルターの上に流して濾過するスタッフ。
濾過したココアのようなガスール原液はしばらくおくと水とガスールに分離してきます。そこで上澄みを減らして濃度があがった原液をテラスへポンプでくみ上げ、少量ずつテラスへ流していきます。以前は全行程を手作業で行っていましたが、原料はいずれもクレイと水という重いものなので、くみ上げにはスタッフへの負荷を軽減するためにポンプを採用したそうです。とはいえ、テラスに液を流すには 経験が必要で、限られた熟練スタッフのみが手作業で行います。ポンプはステンレス製です。

下:屋上テラスで、北アフリカの古都マラケシュの強い太陽と熱い風を受けて乾きはじめたガスール。チョコレートのかけらのようなチャーミングさと荒々しさがある形は、厳しい自然が作り出したものです。

(花岡安佐枝)

2016年5月24日火曜日

雨季の始まりとホームスパ  at the change of rainy season

今年のタイは数十年に一度という未曾有の大干ばつでした(過去形で書いていますが、まだ解消されたわけではありません)。
さいわいにも、私たちの会社に掘られた深い井戸の水脈は枯れることなく、飲料水のデリバリーや市内での水道水の供給は普段どおりと、私たちは比較的普段と変わらず日々を過ごしていますが、普段は疎ましい蚊も、増える水たまりを無くして居なくなってしまいました。
そしてチェンマイ郊外はとても深刻です。工場団地や病院での水不足が慢性化し、家庭でも断水が度々あります。北タイ特産の果物ラムヤイの果樹園でも給水がままならず、木が立ち枯れる地域が増えています。報道では貯水ダムの水量が10%を切ってしまったこと、山中の有名な滝や農業用水の供給元の大きな河が干上がっていることなどを連日伝えています。

かくも空気も地面も乾ききってしまうと、行き所を失った地上の熱でさらに乾燥が進む悪循環が起きるのか、この数週間は最高気温は40度を超え、夜になっても30度を下回らない日が続きました。そんな中では、人は日中は天頂にある太陽のまばゆさから逃げるように、少しでも涼しい場所や空調を効かせた室内で暑気をやり過ごすよりありません。
タイは北回帰線より南側にあるので、太陽が頭の真上にくる日が2回あり、今はまさにその最初のピークの前後でもあります。
この2つの日の間は自分よりも北側に太陽があり、南に短い自分の影が見られるので、例年ならば、多少暑くても北回帰線の外で生まれた身にはちょっぴり不思議な方向感覚のブレを楽しめるのですが、今年はこの天体の運行や自然現象に眼差しを向ける気持ちさえ、暑さに薄れそうになってしまいます。

しかしこの天体の運行や地球を覆う大気の流れの変化、それによる季節の移ろいは偉大です。
2年にわたる乾きと暑さをもたらしたスーパーエルニーニョやインド洋のダイポール現象は、自然の摂理の恐ろしい非情の面を見せましたが、今週に入ると厳しさの中にも優しい慈しみの顔を今度は表してくれたようです。あたかも欠けていた月が少しずつ豊かなな輝きの面を膨らませていくように。
というのは、強烈な嵐「パユッ」が頻繁に来るようになったのです。
この嵐の連打のために家の屋根を吹き飛ばされたスタッフさえ数名いるのですが、ほとんどの家は農業も営んでいますから、皆んなほんの数分でも降る雨は嬉しいのです。風が吹くと「雨が降るかしら」「雨降れ!」そんなつぶやきが業務中にも聞こえ、朝の挨拶は「お家の周りは雨は降った?」でしたから。

実際このかすかなお湿りでも効果は甚大で、わずかな水を上手に活かしジャスミン畑や生垣、ラムヤイの木を守りおおせた庭師のバーンさんの厳しい顔もほぐれましたし、木陰や家の冷たい床下の土に穴を掘り、そこにお腹をあてがって酷暑をしのぐため、朝しか顔を見せてくれなかった番犬兄妹は、ひっきりなしに事務室まで笑いながらおやつをねだりにくるようになりました。
何より驚くのは、こんなに外は賑やかだったのか? 香り高かったか? と思うほど、花の色や香りは鮮烈になり、その中を鳥たちが鳴き交わし、虫たちも忙しく飛んで、あたりに小さな生命の存在が満ちはじめていること。
乾いて封印されていた恋情や生命が一気に解き放たれて、艶かしいことこの上なく、人にも伝染しそうなほどになったことでしょうか。

さて、そんな嵐が来始めた水曜日、ちょっとした「事件」が起きました。
午後、ジャックさんが目を泣き腫らしてやってきました。
聞けば、終業後マンゴーを取ろうとして樹下のロッカー室の屋根に穴を開けてしまったスタッフたちがいたとのこと。しかしそれを報告しなかったために、ロッカー室に雨漏りがしてしまった。そのこと自体は本当は笑い話にだってできる大したことではない。なのに自分がこうも悲しいのは、それを言ってくれなかったこと。年上が年下を口止めをするようなことさえあったこと。それを当人たちと話し合ったところ、1名を除いては理解してくれたが、一番の年長さんがなかなか受け入れてくれなかったからだ。
年上のスタッフたちは、いつか自分たちがここを去る時を思い、後輩たちがよりよいリーダーになるよう育てなければならない立場なのに、なんということか。自分の言葉は仲間たちに通じないのか? と言うのです。
それを話すうちにも、彼女はその時のことを思い出し、また自責の念から涙をぽろぽろこぼしてしまいます。

とはいえ、くだんの年長さんの立場で思うと、自分より年下のリーダーにどこか素直になれない事もあるでしょう。仕事の落ち度でもなく、終業後の遊びの中の小さなアクシデントと気楽に考えてしまったのかもしれません。嵐のおかげで少し気温も下がって心がうきうきしたのかもしれません。
一方、ジャックさんの立場でみれば、スタッフの大切な私物を保管するロッカー室によい環境を保つことは切実。さらに年上のスタッフの背中を常に後輩たちが見ていることを思えば、確かに年長さんの行動はいささか軽率だったことは否めません。
また、アクシデントの後、庭師のバーンさんに「ごめん! 屋根が少し壊れちゃったのよ~」と即座に伝えていれば、(我が社のマンゴーの美味しさは誰もが知っていますから)食い気のあまりの笑い話で終わらせることもできたのは確かです。
ジャックさんの責任感と少女のような純な気持ちを愛おしく思いつつ、誇り高くそれ故ちょっと素直になれないところがある年長さんの胸の内も私は少し苦く切なく思い浮かべていました。

ひとしきり話しを聞き、日々のジャックさんの新人スタッフへの教育の尽力がいかに素晴らしく、誰もが彼女をどれだけ頼りにし、愛しているかを思い出させたり、年長さんのちょっと複雑で不器用な胸の中を一緒に想像してみたりしていると、ジャックさんの涙は明るいものになり、最後にはすっかりいつもの柔和で晴れやかな表情が戻ってきました。
ジャックさんの相談の通訳についてきてくれた日本人スタッフも、普段は現場でジャックさんと行動を共にすることも多く、通訳という立場を越えてすっかりジャックさんの気持ちを受けて、泣いたり笑ったり、最後は抱き合ったり、それを見ているこちらまで心が柔らかく洗われるような気持ちになったのでした。

どんな事件も、次のより良い一歩の力に変えるジャックさんの明るさ、素直さ、そして解決の具体的な方法を考え実行する力には舌を巻くのですが、この時私が一番驚いたのは、
ジャックさんが
「私が年をとって働けなくなってここを去った後でも、ここがずっと誰もが気持ち良く働ける良い会社であり続けるように」
と言ったことでした。

まだ30代のジャックさんが、そんな先のことまで考えながら現場をまとめていること、そしてこれからも長くここで働いて行こうと決心していることに、私は、この人はいつそんな大きな心と遠い眼差しを獲得してきたのだろうか? と、その成長と心の深化、そんな人と十余年一緒に仕事をしてこられたことに感謝するよりなかったのです。

ジャックさんが大泣きした翌日、チェンマイは雨季の兆候が明らかとなり、肌を刺すような暑気は去って、甘く感じる湿度を含んだ風が時折吹き、暑さに乾き固まっていた心も体もほとびるような心地よい日になりました。
午後には気持ちの良いスコールも降って、タイの大衆新聞「タイ・ラット」オンライン版の天気予報では、北タイは今日より雨季入りしたと報じていました。折しも満月でワン・ヴィサカーブチャー、仏様の誕生日であり、天なる甘き露が降ったというタイではおめでたい日の前日。
あまりに符牒が合いすぎて、なんだかまるで、ジャックさんの柔らかな心と涙が、乾いたチェンマイに雨の季節を呼び寄せたかのようでした。

さて、暑さに乾いた心や体を慰撫する雨季ですが、これからタイは気温がぐっと下がって、暑気の疲れがどっと出て体調を崩す人もいますし、紫外線や熱による肌のダメージが現れる人も少なくありません。心地よい季節の始まりですが、身体や肌のケアが肝心な時期でもあります。
そんな時には、アルガンバームを使ったリンパマッサージで身体を温めながらほぐすのが一番です。
また、アルガンバームはマルチクリームですから、ガスールのクレイパックで過敏になった肌を冷やし落ち着けた後、頬や目元の日焼けのダメージによる乾燥やシミが気になる部分に薄くなじませるのもおすすめです。

ガスールは、全身洗浄に使えばデオドラント効果もありますし、湿気や皮脂による肌のベタつきも軽減し、リフレッシュしてくれます。重曹とガスールを入れたお風呂で身体に溜まった熱をほどよくリフレッシュするのも心地よさそうです。
雨季の始まり、アフターサンケアにぴったりなガスールとアルガンバームが入っているkamakura setが手元にあると、この季節の万事がデリケートな変わり目も、肌と心をリフレッシュするホームスパが楽しい時分となるのではないでしょうか。

写真は、会社の庭で採れたマンゴー。こちらでは若い青いマンゴーも好まれます。ほの甘く上品な酸味と松葉に似た香りは爽やかで、塩と砂糖と唐辛子を混ぜた薄紅色のパウダーをまぶして食べるのが定番です。(花岡安佐枝)

2016年5月10日火曜日

お母さんとアルガンバーム   argan balm as stretch mark balm

先週の日曜日は母の日で、SNSなどもお母さんにまつわるエピソードや写真であふれかえりました。
タイは母系社会の名残が残る国で、お母さんへの敬慕にはただならぬものがあって妻より母の肩を持ってしまったり、甘えがちな男性の気性を表す「キットゥン・メー(お母さんが恋しい)」という慣用句があるほどです。
そんな優しく頼り甲斐がある母親像が生まれる背景のひとつとして、女性が仕事に就くことはごく当たり前のことなのもあるようです。警察などのようにほぼ男性ばかりの世界もありますが、市場で仕事をしているのはほとんどが女性ですし、銀行や役所のようなお堅い場所でも女性の数はとても多く、トップが女性なのもよくあること。タイに来て間もない頃、空港の出入国手続きの窓口の女性が子供の面倒を見ながら仕事をしているのに驚きつつ、受付ゲートつまりタイ国とその外の境界を3歳くらいの小さな子が「メー!(おかあさん!)」と叫びながら往復している様子にくすくす笑ってしまったこともあります。
最近でこそ託児所も増えてきていますが、子供同伴の出勤もままあることで、それに眉をひそめる人などおらず、むしろ皆んなで子供を世話しているような素敵な雰囲気です。

特にeavamのあるチェンマイ、つまり北タイはそんな文化が未だ色濃い地域ですが、象徴的なのは今でも家の跡取りは末娘なことでしょうか。
それは大家族が当たり前だった頃、兄弟でも年上と歳下では親子ほども年齢が違ってしまい、一族が代替わりする頃には 、それまで一家を支えてきた年上の兄弟たちも相応に高齢になっているため、まだ若くて気力体力とも充実した末の子が家長の役を担うのだといいます。
それを教えてくれたのは、製造リーダーのジャックさんですが、聞けば案の定というべきか、彼女も末っ子でした。
ジャックさんの取る有給の理由は大抵「家の用事」で、それはお父さんの通院や、他の家族の悩み事などの相談や問題解決に役所に出かけるためだったりするのですが、そういうことだったのです。

「そうか、それでジャックさんはみんなに気配りできて、家族のように大切にできるのね!」
と感嘆すると、
「あら、メーオさんも、ラーさんもそうだし、xxちゃんも末っ子よ。そうそう、あの子も、あの子もそうよ。うふふ。」
と、はにかみの中にそっと誇らしさもにじませて、もちろん例外もあるけれど、実は我が社は末っ娘率がとても高いのだと教えてくれました。
ジャックさんは、スタッフ入社の時は必ず書類審査も面接を自ら行いますが、この結果(末っ子率の高さ)は決して意図したのではなく、優しさと機転と寛容、しなやかな胆力を持つ人を選んでいたら。。というのが真相のようです。立場が人を育てるという好例かもしれません。

さて、そんな頼もしく暖かい妹の力に満ち溢れる我が社ですが、もう一つ特徴があるとしたら、いつも未来のお母さんが2人くらいはいる事です。
開業当初は、おめでたの話を聞くたびに、その人が出産後も仕事を続けてくれるかどうか、不在中の業務のやりくりや人件費の事で、ジャックさんも私もおもわず不安になったものですが、今では家族が増える事は当然・良きこととして支援できる就労規則やチーム構成もでき、ほとんどの人が復職し、復職するとなぜかチームの要になることも多く、おめでたと聞けば誰ともなく「また家族が増えたね! 子供たちのために頑張ろう!」と笑いが溢れ、幸せな気分がやってくるようになりました。
産休に入ったスタッフがいれば、経過見舞いや出産祝いに昼休みに一同出かけるのも社内行事になりましたし、こうして生まれた赤ちゃんが会社に来れば、社内の 空気は柔らかくほころびながら意気は上がります。
そのおかげか、あそこに正式採用されれば、安心して産休・育休も取れる、子育てもできると近隣では噂されるという嬉しい話も時々耳に入ります。
そして、それとともにもうひとつ社内でひっそり流行し、定着したものがあります。
アルガンバームで妊娠線予防のマッサージをすることです。

まだ会社ができて間もなくて日々はのんびりとしており、空いた時間には社内全員で原材料について勉強などができた頃のこと。
血行を良くするビタミンEが多く含まれるアルガンオイルは、モロッコでは伝統的にリューマチや筋肉痛を和らげたり、妊娠線を予防したり薄くするために用いられると、ラバト大学の先生に聞いた とスタッフ達に話したのです。
すると、それまで神妙に頷きつつ話を聞いたりメモをしていた誰もが顔を見合わせでざわざわと色めきたちました。
「あれ?? どうしたの?」
そのざわつきにちょっと私は驚いてしまいました。

「アサエさん! あたしら、それを早く知りたかったわ~! もう!」
と、姐さん格のエージョーさんたちが大げさな身振りでいいます。
「?」
「だぁってねぇ・・」
「??」
「ほぉら! 見てごらん!」
「うひゃっ!」
エージョーさんはTシャツを捲り上げで、お腹をばっ! と見せたのです。
ついで、スタッフの中でも陽気ないたずらものの何人かもお腹を見せるではありませんか。
なかには普段は、冗談話にも加わらず澄まし顏の若手まで加わっていて、そのコントのような様子にもう誰もが大笑いです。

「ほら見て、私ら何人も産んだでしょ? だからお腹周りには悩みが多いのよ?」

その頃、女所帯ならではの、解放されすぎてしまった女子校状態の雰囲気にまだ馴染めていなかった私の目の前に、並んだお母さんらしい柔らかなお腹、お腹、お腹・・。
なるほど大いなる母性を感じる少々ふくよかなお腹には、ぱっと見にも目立つ妊娠線が残っている人もいます、妊娠中や出産の時の言葉にならない大変さや苦労(もちろん、幸福もですが)は、想像に難くありませんでした。
「今からでも間に合うかしらねぇ?」
「傷跡などにも良いって、先生からは聞いたけれど・・」
「それはいいわね! がんばるわ!」
弾けすぎたおふざけもさらりとこなす、さばけた肝っ玉母さんも、それは一面。髪に 香りの良い花を飾ったり、晴れの日にはお洒落バッチリ決める優雅な一面も持っています。ふざけてみてもやっぱり気になっていたのでしょう。

そんな大騒ぎもすっかり忘れて1年ほど経った頃でしょうか。
ジャックさんが、スタッフの一人を連れてきました。
「ねえ、みせちゃったら?!」
不良少女のような、ぞんざいな口調でニヤニヤとちょっと悪い顔でいいます。
「それじゃあ・・」
連れてこられたスタッフもいたずらそうに、にやり。
「ほらねっ!」
ぱっと真っ白なTシャツが一瞬捲り上げられ、白い肌が見えたと思うと隠れてしまいました。
「彼女、お腹が大きくなり始めてから、毎日アルガンバームやオイルでマッサージしたんですって」
「クリーム製造で余ったのを塗っていたら、妊娠線、ほとんど出なかったんです。産んだ後もマッサージがんばったの!」
白いお腹の主も、くだんの大騒ぎの後、産休に入った一人でした。

固まる私を尻目にジャックさんが自分のことのように自慢げに語るには、あのアルガンオイルのモロッコでの話の後、社内ではクリーム製造時に出る、計量ボウルや湯煎鍋、撹拌棒に残った製品にならないクリームやオイルの残りの分配を手にするバトルは大変だったのだそうです。
普段から石鹸の削りくずなどの製造時に出る製品にならない分は、私たちは社内清掃などにまず使い、それでも余る分をスタッフ全員で分け合ってどの原料も無駄なく使いきりますが、貴重なアルガンオイルと蜜蝋だけで作るアルガンバームについては、もともと全員に足りるよう分け合う余裕がありません。それが、密かな女の競い合いの火種になったのです。

ともあれ、ベテラン母さんも新米母さんもシャワーのあとは、念入りなマッサージタイムとなり、それなりの人数がきちんと継続して相応に満足できる結果を得られ、なかには好みのハーブやオイルをさらに加えるレシピを編み出した人までいたのだとか。
新たにお母さんになった人の白いハスの蕾のような、丸く滑らかなお腹にドキリとしながらも、流石は身近にハーバリズムや、マッサージの伝統を脈々と受け継ぐ北タイの女性達よ。生活の知恵を仕事に反映させる機転がこんなところにも生きているのだと、私は改めて尊敬の念を深くしたのでしました。

スタッフの人数も増え、子育てがひと段落して先輩としての責任を負い、さすがに若気の至りや勢いでTシャツをまくりあげるわけにもいかなくなった人も増えてきたこの頃ですが、代わりに、今でもおめでたを迎えたスタッフには「ウチのバームは良いのよ、ちゃあんとマッサージしなさいよ! 後悔先に立たずよ!」と姐さんたちは、職人として、お母さんとして、未来のお母さんにささやくのだとか。

タイのお正月、ソンクラーンが明けて2日目、実質的な始業となった今日、朝礼で大きなTシャツのようなワンピースを着て、丸いお腹をちょっと苦しそうに、そして大切に抱いて座っている二人のスタッフの横顔を見ながら、ふと「Tシャツ事件」を思い出し、もう彼女らにも姐さんたちは我が社のバームを使った妊娠線対策の秘伝を授けたのかな? せっかくだからお祝い金のほかに、会社からアルガンバームもプレゼントするのはどうだろう?などと考えたのでした。
もし彼女たちの知恵を日本で応用するならば、マンダリンやネロリ、カモミールなど、妊婦さんにも優しい精油を少しだけ混ぜてみるのも良いかもしれません。

また、来年の母の日のプレゼントや、出産祝いにアルガンバームはいかがでしょうか。アルガンバームはマルチクリームですから、フェイス用に使えばアンチエイジングクリームとしても抜群ですし、肘や踵のざらつきを抑えるボディクリームとしてもとても優秀ですし、シンプルなレシピと優しい使い心地は赤ちゃんのあれ止めにもぴったりです。
ちなみに、タイの母の日はシリキット王妃の誕生日にちなんで8月12日で祝日です。その前日には、学校でお母さんに感謝を捧げるセレモニーがあり、学校に通う子を持つスタッフたちはちょっと誇らしそうに有給を取る日でもあります。

写真は、もうじきお母さんになるスタッフのひとり。手先がとても器用で真面目な彼女は入社間もない頃から実力を発揮、eavamの顔の一つでもある手漉き紙のトゥアナオ包みが実現したのも、彼女の技量のおかげです。来週から産休入りするため(とはいえ、今から復帰の意欲満々)、不在中に備えて後輩にその技術を伝授中です。(花岡安佐枝)

*eavamのバームは、トライアルセットの「kamakura set」(http://eavam.com/cream/kamakurasetb.htmlでお試しいただけます。近日中に単体製品として「ラベンダーアルガンバーム」もデビューする予定です。

2016年4月28日木曜日

春夏のアルガンバームと日焼け対策  uv protection and argan balm

「アサエさん、この暑さはスーパーエルニーニョが原因なのよ! でも今年の雨季はいつもより少し早くなって、今度はラニーニャになるかもしれないのですって! 早く雨、降らないかしら!」

昨年に続きあまり思わしくない予想が出ているラムヤイの作柄を気にして雨の到来や天気の動向の調査に余念がないジャックさんは言います。
なにしろジャックさんの口から、エルニーニョ(しかもスーパー付き)、ラニーニャなどという言葉が飛び出すのを聞くのは初めてで、彼女がどれだけお天気を気にしているかがひしひしと伝わってきます。
ラムヤイの作柄といってもジャックさんの気がかりは、果実ではなくアルガンバームの原料となるミツロウです。
花がどれだけ咲き、そこで飼われる蜜蜂がどれだけ活発に活動できたかは、果実同様、降雨や気温はラムヤイの開花時期や量とおおいに関係があるためです。

「あたしもね、長く生きてきたけれどこんな暑さ、経験したことないねぇ。毎日毎日40度だなんてねぇ・・・」
良心的で美味しいと評判で、大勢のスタッフがここでお昼を食べに通うため、まるで社員食堂同然になっている屋台のおばあさんは、お店の陽射しは遮るものの輻射熱が強烈なスレート屋根の下、がらんとしたテーブルの間で、お釣りを支払いながら愚痴ります。
普段なら、食後もテーブルでおしゃべりに興じるスタッフたちも、あまりの暑さにこの頃は食べると少しでも涼しい会社へと、さっと引き上げてしまうので、相変わらず繁盛しているのにもかかわらずお店は変に寂しい様子で、おばあさんはそれがちょっぴりつまらないのです。

暑さには慣れっこの地元の人でさえ、未知の体感に戸惑い不安さえ覚える前代未聞の暑さと乾きの今年のチェンマイの暑季(ルドゥ・ローン)。外に出れば本当に肌が痛くなる熱風が吹き、干ばつで空き地の草は枯れ、牛は木の下で耐えるように座っています。貯水池はつぎつぎ干上がって果樹や庭木の中には立ち枯れるものも現れつつあります。地域によっては農業用水はもちろん、生活用水までも不足する事態です。
この強烈な熱に加え、北回帰線より赤道側にあるタイでは、間もなく太陽は頭上に差し掛かろうとしていて、この暑季は激烈・苛烈という言葉がふさわしい日々続いています。

私たちの会社の庭は、政府が干ばつの予測と注意を出した頃から、ジャスミン畑や生垣の下へと給水パイプを縦横に巡らせ、貯水タンクの元栓を開けば、植物たちの根元に必要最低限の水を滴らせる仕組みを、庭師のバーンさんやジャスミン栽培の先生とが準備しておいてくれました。そのため、かろうじて植物たちはみずみずしい緑を保ち、ジャスミンも白玉の花を咲かせ、庭はあたかも砂漠の中のささやかなオアシスの様子です。
乾きと熱気の中の、緑と花の香りに漂う水の気配はまさしくオアシスのごとく普段以上に尊く感じられ、相談を持ちかけてからすぐに設置を始めてくれたバーンさんたちには感謝してもしきれない思いがこみ上げてきます。また、この熱暑の下、バーンさんが庭へ出る時間を普段よりも減らせたことにもほっとしています。

そんな 熱気とバーンさんが丹精した花の香と緑が発するひそやかな水の気配を感じるたびに、私の中には数年前まで毎年数ヶ月にわたって携わったモロッコでの薔薇水作りの記憶がフラッシュバックします。 
それも標高の高いオアシスの、ダマスカスローズの花の最盛期の芳しく精妙な晩春よりも、薔薇水の蒸留を終えてボトリングを行うために街に戻った頃の、初夏から盛夏にかけてのマラケシュでの体験を、より鮮烈に思い出すのです。
おそらく、未体験の物作りの場で、時には現地の人たちとの相克にも悩んだ苦さと、知ることと作ることへの身をよじるような喜び、そして厳しく鮮烈な季節とがそうしているのでしょう。

マラケシュも夏になれば、やはり連日40度を超える猛烈な暑さと乾きに苛まれ、それが極まると「シェルギイ」という暑い砂嵐が吹き荒れます。そんな時、人は窓も閉めきって、外の暑さよりはかすかにひんやりした気配がある薄暗い室内で、ひたすら嵐が去るのを待ちます。
タイもモロッコも、強烈な乾きや暑さや陽射しが、もともとよく似ているのですが、なんとその極みにやってくる埃っぽい嵐も、チェンマイのお天気にあるのです。ましてここタイとモロッコは製品の原料で今も繋がっていますし、女性たちの肌がガスールやアルガンオイルで磨かれているところも同じです。おかげで、私は毎年暑季になると、マラケシュでのあらゆることが暑かった頃を思い出さざるを得なくなってしまうというわけなのです。

こちらタイの夏の嵐は「パユッ」と呼ばれています。4月から5月中旬の暑季から雨季の端境期に通り魔のようにやってきて、時には大木や電信柱をなぎ倒し、家の屋根も吹き飛ばす荒々しいものです。
シェルギイが過ぎた後のマラケシュには、夕立のような雨が降って、肌寒いくらいに気温が下がって徐々に季節の移ろいが始まるのですが、パユッも、暑季の終わりと雨季の到来という豊かな恵みの先触れであり、やはり大風の後に時には雹混じりの激しい雨が降るのもそっくりです。更に強烈な光や暑さや乾きという自然界のエネルギーの横溢や季節の移ろいに五感が苛まれながら、甘い花の香りを嗅ぎ、どこか苦しい恍惚が淡くある中でなお、ものづくりに神経をぴりつかせる自分自身の内側の状態も奇妙に一致してしまうのです。

さて、こんな目眩がするような強烈な一日が終わると、肌は、熱や乾燥と紫外線でやけにひりつくこともしばしばですが、ラベンダーアルガンバームを塗っておくと、そのダメージは随分違います。
もちろん、ミツロウが肌を乾燥から守ってくれること、アルガンオイルに含まれるビタミンEやポリフェノール、ラベンダー精油の鎮静効果もあるのですが、これにはもう一つ理由があります。
アルガンオイルには、UVプロテクションの働きもあるのです。

アルガンオイルが日本で知られ始めた頃、あるドキュメンタリー番組でオイルの生産にたずさわる女性の言葉が「昼間、オイルをつけると肌が焼けちゃうわよ」と日本語で吹き替えられているのを聞いたことがあり、おや? と思いました。
2000年に、初めてモロッコを訪れ、モロッコで最初のアルガンオイルを作る女性たちの組合「アマル」を設立したズビーダ・シャルーフ女史からもらった彼女のアルガンオイルの研究レポートには、アルガンオイルの効果としてUVプロテクションともあったためです。彼女は女性の就労の場を作る社会活動にも携わっていましたが、本来はアルガンオイルの研究者でもあったので、そのレポートの情報を確認するべく改めて日焼け止めのSPF値を調査するラボに私たちのオイルを検査してもらうことにしました。
その結果はSPF8PA+というものでした。

つまり、何も付けないよりも8倍の時間で同程度の日焼けをするということ。陽射しの強い季節にこれだけを日焼け止めとして使うことはできませんが、少なくとも、日焼けを助長するものではないことがわかりました。日差しの強いタイではさすがに難しいですが、日本ならば、秋冬の陽射しが弱まった時期の肌を休ませたい休日、テラスで洗濯物を干す時などの生活紫外線対策には、フェイスパウダーを併用すれば活用できそうな値とも言えるのではないでしょうか?
また、アルガンオイルは乾性のオイルなので軽い手触りで使い勝手が良いものの、カバー力やその効果の持続力の点では不足するのも弱点です。そこにミツロウを加えてバーム化することで、肌を乾燥から守る力を加え、オイルの効果を持続させることが可能となります。このミツロウの縁の下の力持ち的な働きによって、アルガンバームは、オイル本来の肌に活力を与える働きに加え様々なストレスから肌を守るようになっています。
しかも、トライアルセット「kamakura set」に入っているバームは、ラベンダー精油入りですから、様々な刺激や、つい念入りになりすぎてしまうクレンジングでデリケートになった肌を鎮静してくれる効果もあります。

ともあれ、チェンマイの暑い風と陽射しと乾燥の中、肌もちょっとサバイバルな感じで日々を過ごしている私たちは、寒い季節同様アルガンバームを手放せずにいます。
肌や足元の露出が多くなる分、踵や肘のケアも気になってバームの消費量がむしろ増えている感なきにしもあらずです。日本もそろそろ初夏の気配が近づいてくる頃、一見、しっかりした手触りのバームは少し重すぎると思われるかもしれませんが、つける量を調節すことでその重い感覚を排し、潤い不足の生じる部位にスポット的につけるようにすると、これからの季節にもバームが必要な場面がたくさんあると気づかれるのではないでしょうか。

写真は、朝ジャスミン畑で製品開発などで使うために花を摘むスタッフたちです。干ばつと山焼きの煙の影響で中にはマスクをしているスタッフもいます。そして干ばつ気味の中でなんとか踏ん張っているジャスミンの花。
最後は、eavamの基本ラインをお手軽に試せるトライアルセット「kamakura set」の中身。ラベンダーアルガンバームも入っています(まずはタイ国内のみの販売です。http://eavam.com/cream/kamakurasetb.html)。 (花岡安佐枝)

2016年4月8日金曜日

朝のクレイケアと水回り掃除 cleaning washbasin with ghassoul clay



前回は、朝の普段を特別にするクレイケアとして、重曹入りガスールペーストをご紹介しました。
顔に重曹入りガスールペーストを伸ばしたら、まずはそのまま歯磨きし、歯磨き時間をクレイパック時間と兼ねるとお話しましたが、歯磨きをする前に、もうひとつとても便利なガスールペーストの活用法があることも、今日はお話しできたらと思います。

朝、顔をぬるま湯で予洗いし、重曹入りガスールを顔に塗り、いざ歯磨き!
・・・と、手元を見れば、手はガスールで泥んこ状態ではないでしょうか?
さすがにこれで歯ブラシもコップも持ちたくはありません。かといってそのままガスールを洗い流すのもなんだか勿体ないもの。
そこで、この手に残った重曹入りガスールを無駄なく使う方法をふたつご紹介です。

ひとつめは・・・。
洗面台の流しを、このガスールのついた手でさっと撫でて、手を洗いながら流しのガスールも洗い流します。

ふたつめは・・・。
歯磨き用のコップに手に残ったガスールをつけ、手とガスールもろともすすぎます。
ガスールの洗浄力は、油分やたんぱく質やそれらが入り混じった水垢にも効果抜群なので、こうすると手はもちろんのことコップやステンレスや陶器の流しも、新品のように滑らかな手触りと光沢、透明感を取り戻すことができるのです。

あまりに効果がありすぎるので、コップも洗面台も、せっかくなので蛇口も。。。と、あちらこちら目移りしてしまいそうですが、それでは朝のスキンケア時間がみずまわりの掃除時間になって、うっかり家を出る時刻が遅くなってしまいかねません。
月曜日は洗面台、火曜日はコップ、あるいは朝夕というように、 曜日や時間で順繰りにきれいにする場所を決めると、普段の朝の段取りを保ちながら、洗面台まわりが無理なく明るく清潔になって、スキンケアもさらに新鮮な気持ちで楽しめますし、せっかく作ったガスールのペーストも無駄なく使い切れます。一石二鳥以上の活用法、ぜひお試しください。

この方法、モロッコで仕事をしていた時に思いついたものでした。
なにしろ、ミネラル分たっぷりのクレイ・ガスールが採れる国です。大抵の場所が、お湯を沸かせば水の表面にうっすら白いカルシウムの膜ができるほどの硬水です。
とはいえ、甘く香り高いミントティを美味しくするにも、モロッコ人の家庭の味であるタジン鍋の野菜や肉を柔らかく滋味たっぷりに仕上げるにもこの強力な硬水は不可欠ですが、一方で石鹸では洗い物が思うようにできません。
しかも、タジンもミントティもモロッコでは日々の食の中心にある存在であり、たっぷりのオリーブオイルと羊肉の脂が混じり合った鍋も、手づかみで肉や野菜を食べるため(それが一番美味しいのです!)、必ずや脂がついてしまう指先や口元が触れたお茶のグラスが、食事のたびにキッチンには山と運ばれてきます。おまけにモロッコの家は大家族が大抵ですし、そうでなくても友人たちなど大勢で楽しく食事をすることを大切にしますから、食事のたびに出るグラスや食器の数はなまなかなものではありません。結果、昨今のモロッコの一般家庭のキッチンではおのずと匂いも洗浄力も強力な合成洗剤が使われがちです。

でも、私たちが欲しいのはより良質な自然素材を使ったもの。
またそれにふさわしい意識をもって生活もしたいと考えています。
そのために上質な原料を求めることはいわずもがな、より安全な製造環境の維持にも努めなくてはならず、排水など周囲の環境にもできる限り安全で匂いもないものを使うことが、自らの生活やものづくりの大切な条件となります。
実際チェンマイにあるeavamの工場では、器具や布などの洗浄に使うのは、すべて自社で作った石鹸の不良品や成形の際に出るフレークです。
なのに大切な原料の供給元であるモロッコでは頼みの石鹸もちょっと難しい、かといって市販のものは使えない。どうしようかしら? せっかく洗浄効果のあるものを作っているのだし、もしかして・・・? と、お皿や鍋の山を眺めつつ、試作などで余ったガスールを試しにキッチンで使ってみたところ想像以上に効果てきめんだったのがきっかけだったのです。
以来、除菌などが必要な時、大勢が集まる工場では、熱湯やアルコール、精油、石鹸も使いますが、チェンマイの我が家ではガスールは洗面台のみならず、キッチンでも大切な座を占めています。

とにかく素敵なクレンジング力と保湿力があって、スキンケアの始まりには欠かせない魔法のようなクレイ「ガスール」ですが、少し見方を変えると生活の中にも大きな活躍の場があること、その力が身の回りをとても創意工夫に満ちたシンプルなものにしてくれることに気づかされます。
気負ったり構えたりすることなく、スキンケアの領域以外でも、少しずつガスールの活躍の場を生活の中で広げてみるのはいかがでしょうか。朝、鏡のように涼しく光るシンクや蛇口を見るだけでも、1日の始まりに胸がすくような爽やかさが加わること請け合いです。
写真は、週末の浴槽磨きの図。ハンドタオルに重曹入りガスールペーストをつけて浴槽の内側をさっと撫でたところです。この後は水で軽く洗い流すだけ。曇りのない鏡のような仕上がりになります。
(花岡安佐枝)

2016年3月29日火曜日

肌理を整えるデイリーでスペシャルな"ガスール"ケア daily pores care with ghassoul clay for spring & summer

チェンマイは3月から4月にかけてが1年で最も乾燥して暑い季節。おかげで肌はしきりとベタつきますし、うっかりすれば暑さで皮脂や汗で肌理も粗くなりがちです。日本では、冬から春への端境の季節であり、時には花粉症も相まって、過敏さや乾燥、そして角質によるざらつきと幾重にも肌に悩ましさが付きまとう時分。
暑さや鼻づまりでちょっとぼおっとした頭で、気軽に、つまり簡単・ちょっと手抜きで、しかし効果的に角質や肌理を整えるケアができたらどんなに良いかしら・・など、とムシが良いけれど切実な思いに駆られてしまわないでしょうか?

今日は、そんな時に便利な方法をご紹介したいと思います。
まず、用意するのは、ガスールと重曹(食品用または局方)です。量はそれぞれ30gずつ。
これらを混ぜ合わせたら、2倍〜3倍くらいの水(70〜80cc お好みで調節してください)で溶かし、
ペースト状になったら更に軽く混ぜて、重曹とガスールが均質になるようにします。
あとは、これを毎日の朝夕の普段の洗顔に使うだけ。

普段よりも意識して丁寧に多めにこめかみ、Tゾーン、鼻筋、小鼻のまわりなど、肌のざらつきや乾きが気になるところになじませるのがコツです。
肌になじませたらすぐに洗い流しても構いませんが、満遍なく顔にペーストをなじませたら、そのまま歯磨きをし、歯磨きが済んでからペーストを洗い流す、ショートパックをすると、さらに肌の滑らかさとみずみずしさが増します。

個人差もあるとは思いますが、3日目くらいで、特にこめかみや小鼻のざらつきがすっきり滑らかになり、肌理が引き締まってくるのが感じられるでしょう。
朝の慌ただしさの中、普段のスキンケアの時間を増やすことも段取りを変えることもなく、より効果的に肌を明るく肌理細かく保つスペシャルケアを盛り込めます。
重曹は弱アルカリ性で殺菌力もありますので、この方法ならば数日分のガスールペーストを作りおきできますし、ラベンダーや薔薇の精油を加えると制菌効果を高めながら、スキンケア効果・リフレッシュ効果なども加えられ、朝夕のスキンケアをさらにスマートかつ潤いある時間にできます。

毎朝、このレシピのガスールのすっきりした洗い上がりに思うのは、もしもティーンエイジャーの頃からこれがあったら、肌をもっと健やかに保てたのでは? 思春期ならではの不安定な肌の悩みが随分楽になっていたのでは? ということ。
忙しい大人の女性のみならず、よりさまざまの世代の肌に寄り添えるのでは? と思ったりもする万能レシピです。

そしてもしも、少し多めにペーストを作ってしまったら、全身パックをしてそのままお風呂に入ってしまいましょう。
重曹は、肌が滑らかになる温泉と同じ効果があるので肘や踵などのざらつく部分も柔らかになりますし、ガスールはデオドラント効果もありますから、湯上りがとても爽やかな入浴剤になります。
お湯の中のガスールや重曹のクレンジング力はまだ持続していますから、浴槽を残り湯を入れたままスポンジで軽くなでれば、浴槽のざらつきや曇りもびっくりするほどきれいにできます。
春は「命がみなぎり張りつめていくことから"はる"という言葉になった」という説もあるように、物事の新しい始まりの季節ですが、その変化に心や体は戸惑い、揺らぐこともあります。そんな、喜びと裏腹なもやもやした感覚も、ガスールの心地よい手触りでさっぱりと洗い流してくださればと思います。
このレシピ、ガスールペーストの粘りととろみが強まり、かつホイップクリームのような手触りが加わるのも特徴です。
そんな優しく軽やかな手触りも、リフレッシュの時間が大切な季節にぴったりな気がします。
入れ物は、洗面所もフレッシュなしつらいにと、重曹もeavamの白い器で揃えてみました。こうしておけば、重曹をそのまま歯磨き粉がわり、ボディスクラブなど用途を自由自在にもでき、身づくろいの時間をシンプルに美しくできそうです。

*ご注意:
このレシピは肌が薄いかた、痛みがある場合などは、肌に合わないこともあります。その際はお試しにならないようにしてください。

(花岡安佐枝)

2016年3月17日木曜日

蜜なる季節がやってきた   hot and dry season has come ! but it is so so sweet !

昼を過ぎても11度より気温が上がらないという未曾有の寒波に見舞われた日もありましたが、それさえ恋しくなるような暑さと山焼きの煙で少し薄曇りの空の、暑季(ルドゥ・ローン)がやってきました。
しかも昨年の雨季が極端に少雨だったため、現在チェンマイは干ばつの被災県に指定され、暑さも例年なのに加えどこか不安な気分が強いのですが、それでもなお私たちには楽しみなことがあります。
この季節は、ラムヤイとジャスミンの花の季節なのです。

工場の庭のラムヤイの花が咲き、あたりに甘い蜜の香りが満ち始めると、製造部門のマネージャー、ジャックさんとバームチームリーダーのノイちゃんが電卓とノートを手にそわそわし始めます。
それは、年に一度限りのミツロウの注文予約の時期だからです。

私たちのバームの基材となるラムヤイの香りのミツロウは、この時期にラムヤイの畑で蜜を集めるミツバチの巣からしかとれませんし、私たちがミツロウを買う養蜂家のサヤンさん(御歳85歳)は、彼が厳選した花を増やすためのホルモン剤や農薬を使わない、人にもミツバチにも安全なラムヤイの果樹園にしか巣箱を置かないこだわりの人。結果その年の蜂蜜とミツロウの生産可能量は限られてしまいます。
それゆえ、年間の必要量予測が外れたり、予約が遅れたら取り返しのつかないことになってしまいます。ゆえにこの時期の二人の準備は大重責なのです。
もちろん、思いがけない注文や万が一を考えて、少し余分に在庫は持っていますが、新しく香り高いミツロウでバームを作りたい私たちですから、
「ああ、またおじさんたら果樹園へ行っていて連絡がつかないよ!」
と、電卓を叩き、鉛筆を握るジャックさんとノイちゃんの柔和な眦がつり上がり、可愛いため息がいつしか威勢の良い鼻息になるのも致し方ないことです。
そんな緊張を伴う注文ではありますが、二人はもちろん、私を含め買い付けやバーム製造担当者たちにはとても楽しみなことがあります。

一つは果樹園へミツロウの作柄を予測するためにミツバチや花の様子を見に行くことです。
涼しい木陰に漂うラムヤイの少しシナモンに似た甘い香りの帯がたゆたう中、ミツバチの歌声や、ミツバチの体重に耐えられずぱらぱらと散るラムヤイの小花の落ちるかそけき音を聞くのは、美味しい柔らかな水を沢山飲んで、ふっと深呼吸するような満ち足りた喜びがあります。
そしてもう一つの楽しみは、いよいよ注文量を決めて事務所へ出かけ、注文を終えたら、採れたての複雑で芳醇な味わいと香りのラムヤイの蜂蜜を買うこと。少し味見をしながらその年の蜂蜜の出来具合やおじいさんのこだわりを聞くことです。

サヤンさんは、中部タイの出身ですが、青年時代にチェンマイへ農業の学校へ通うためにやってきて、以来北タイの自然と「恋に落ちて」、公務員として長らく北タイの各地で農業指導をしたのち、養蜂を始めたという珍しい経歴の持ち主。
それゆえ、自分がミツバチの巣箱を置くラムヤイ農家の人たちも、より安全に質の良いラムヤイを育てるために化学肥料などをできるだけ使わないことなどのアドバイスをする他、ラムヤイや蜂蜜の作柄が悪い年には無利子で融資するなど、とても深く良好な関係を結んでいます。まさに良きタイ人そのもののような人なのです。
私たちは、そんな人もその生業もミツバチも、大切にしてやまない人の思いを聞くのが大好きなのです。
私たちの庭のラムヤイの花もそろそろ5分咲きを過ぎてきました。ジャックさんたちがサヤンさんに会いに行く日も間もなくでしょう。

それにしても、この時分のチェンマイの暑くて日ざしが強く乾いていることといったらありません。しかも朝は肌がけ布団が手放せないくらい気温が下がります。肌寒くて、暑くて乾いて・・と、1日のうちに日本ならば3つくらいの季節を過ごすような感じですから、肌はどことなくひりつくような突っ張るよう。日本もまだ冬の名残の乾燥と、日毎に強まるお日様、そして人によっては花粉症の影響もあって、やはり肌には乾きや心許なさを感じるのではないでしょうか。

そんな時に、心強く手放せないのがアルガンバームです。
特に私たちeavamのアルガンバームにはモロッコの高原で蒸留されたラベンダー精油が加わっているので、アルガンオイルが肌にハリを与える働きのみならず、不安定肌を沈静化させてくれ、サヤンさんの純粋で良質なラムヤイのミツロウが彼の誠実な心のようにやさしく肌を包んで乾燥を防いでくれるのです。
肌にどこか心許なさを感じたら、普段より少し多めに目元や鼻のまわりの肌が薄い部分に塗ってみてください。ラベンダーの香りとともに肌がふっと楽になるのを感じられるでしょう。
そして、少しバームが残ったら、口元にリップクリームとして伸ばしてみてください。一つの香りで心地よく フェイスケアをトータルにできます。
さらに毛先にヘアワックスや練り香としてそっとなじませて、さらに積極的にラベンダーの香りを楽しめば、更に心地よさも深まるはずです。
肌も、気持ちもどこか揺らぐ季節。アルガンバームの優しい手触りと香りで、心地よくお過ごしください。(Asae.Hanaoka)

2016年1月21日木曜日

年を重ねる  year by year

2015年は何事も慌ただしく盛りだくさんでした。
今年も2016年もその慌ただしさは続いているため、今までで一番短い年末年始休業で、4日から私たちは早速普段通りに製造をはじめています。

そして、各部門のリーダーはこれからの計画進行にそなえて、新たなスケジュール草案、資材などの準備の打ち合わせです。
中でも相談ごとが多いのは、長らく製造現場の長を担っているジャックさん。
一昨日もミーティングが多い日でしたが、彼女は簡単なもの、少し悩ましいもの、などなど、私の頭が疲れてしまわないように案件の順番に緩急をつけて相談を進行する手際は、さすがです。おかげで時には、眉間にしわを寄せたりしながらも、テンポよく1時間が過ぎ、相談を終えた後にはスポーツか武道の真剣勝負を終えた後のような、さっぱり明るい気持ちになってしまい、
「今年もよろしくお願いします! お互いを信じながら、頑張りましょうね!」と言葉を掛け合うことができました。

すると・・。
「あっと、忘れるところだった! もう一つあるんです」
にんまりと笑うジャックさん。
こういう時は大抵、相当重たい話か、良い話です。
今日の感じだと、良いことかなぁ。。と、こちらも予想をつけながら、
「なあに?」
「うふふ。あのね・・。んぅひひひひひひ」
すべきことを終えて、ちょっとタガが外れたジャックさんは笑いが止まらなくなりはじめます。
「ジャックさん? ジャックさん!」
同席していた、ジャックさんの気持ちをいつも汲んで、我がこととして通訳もしてくれる桃子さんもなにやら嬉しそう。
「あのね。ノックノイちゃん、昨日の朝、無事赤ちゃんを産んだんです。男の子で髪がふさふさした元気な子ですって!」
ノックノイちゃんは、入社1年と少しですが、とても熱意があって将来有望なメンバーです。
「うわ~! よかったぁ!」
もう一同、にやにや、にこにこ、ふるふると総崩れです。

私たちの会社は現在総勢45名ですが、うち43名が女性でほとんどが既婚者です。
つまり、お母さんたちの会社なのですが、そのため妊娠中だったり、産休中のスタッフがいることがしばしばなのです。
しかし、出産は多くの女性が経験することであり、身の回りに次の世代が現れることは喜ばしいことです。
また、多くのスタッフが出産を機に一回りもふた回りも頼もしくなるのを私たちは目の当たりにしてきました。
「また、子供たちが、家族が増えちゃいましたね、お仕事、がんばらないとね!」
私たちは、じんわりと責任の重みを感じながら、嬉しく言い合いました。

この会社が始まってすでに13年です。
入社当時は生意気で世の中にちょっと反抗的な女の子という風だったスタッフは、その茶目っ気や気骨は変わらないものの、肝の据わった頼もしい中心メンバーとして在庫管理を仕切っていますし、新米お母さんだった人はもう安定の熟練技能者で公私の時間編集の達人になりつつあります。私やジャックさんがまだ新米だった頃を頼もしく支えてくれたベテラン母さんたちは孫ができて、すでにおばあちゃんという人も何人もいます。おばあちゃんといっても、それぞれまだまだ現役のいきいきと素敵なマダムたち、姐さんたちではありますが。
そして、スタッフたちが時折抱っこして見せに来てくれた乳幼児は、最近では恋やバイクに夢中で親を悩ませたり、年末年始のパーティーに大人びた様子で顔をみせてビールを飲んでいることもあります。
そうした仲間たちの成長や成熟、老いを見ていることは、あたかも大家族の歴史の物語の1シーンをみるようであり、時の流れを共にすごしてきたことに、静かな充実感があります。 個人が尊重されるものづくりを通し、他者とともにあること、互いの役に立つことを実感する、豊かな10余年をつみ重ねてこれたようにも感じています。

私たちは、こうした個々のライフステージの変化を受け止めながら、実際にそれに応じて会社の雇用の仕組みを変化させてきました。
たとえば、日本とは異なる多様な家族構成をもつタイの家庭にあわせた介護休暇の条件を工夫したり、産休制度におばあちゃんの育児休暇を作ったり、散々問題を起こしたものの仲間たちの助けで出戻ってきたスタッフのサポート、加齢による体調不良や持病でも本人に働く意欲がある場合の伴走のしかた、などなど。
そのおかげなのか、タイではどんな企業も悩まされるジョブホップはここにはありませんし、やむを得ず退職した人も、近所で暮らす人たちは、折に触れて会社に顔を出してくれます。
声高に、言葉にして家族のイメージを会社と重ねて組織の結束を作ろうと意図したことはありませんでしたが、個々のありようを受け止めてきた結果、いつの間にかジャックさんが図らずも家族といったように、それに近しい信頼関係が培われてきたのではないでしょうか。

まるで、新ブランドという私たちの新しい冒険の始まりに合わせるように、年が明けてまた新しい 世代を授かりました。
まだあと2名ほど、世に出るのを待っている子供たちもいます。
これから更に、10年またその次の10年と、仲間たちが良き日々を、人生を過ごしていけるよう、そしてそのたずきとして作られるものたちが、使ってくださる方たちの日々を心地よく彩ることができるよう、今年も誠実であると同時に、思いがけないようなものを作り、届けていくことができたら。と思っています。

さて、赤ちゃんといえば、私たちが作るものは、赤ちゃんのデリケートな肌にも良く合うものです。
モロッコのクレイはもちろん、優しいクリームを塗ったような洗い上がりになるコールドプロセスのオリーブ石鹸、そしてアルガンオイルのバームは、ふわふわと初々しくフラジャイルな赤ちゃんの肌をガーゼの産着のようにそっと包み、乾燥から守ってくれます。
石鹸チームのリーダー、メオさんは「とても清らかなもので肌を包んだように感じます」と、自ら作った石鹸やクリームの使い心地を語ったことがあります。
この世に現れたばかりの赤ちゃんの肌を洗い、包むにはぴったりではないでしょうか。(Asae.Hanaoka)

*写真は年末恒例のタンブンの光景。
最後にお坊さまやアチャーンから祈りがこもった紐サーイシーンを巻いていただきます。