「トゥア」というのは豆、「ナオ」というのは腐った、という意味で、トゥアナオというのは大豆を発酵させて作る食べ物・調味料である。日本でいう納豆のようなものだ。よくバナナの葉などで包まれている。
周りを見渡してみると、バナナの葉は、スープの材料を束ねるものに使われていたり、お菓子の包みや容器として、また茶碗蒸しのような卵料理の器としても使われている。なんでも殺菌効果もあるようで、生肉や鮮魚を並べるシートとして使われているのもよく見かける。
バナナは、タイでは自生している場合も多く、とても身近な果物である。家の庭や道端にバナナがたわわに実っていたりする。赤ちゃんの離乳食も10分粥ではなくて、バナナからスタートするという。
時々、家の軒先にバナナの葉を干してあるのを見かけるのだが、食べものの容器を作ったり、料理で何かを包んだりするのに使うのだろう。平面状のバナナの葉が自由に形を変えて、器として、包むものとして大活躍してる。昔ながらの知恵が今もなおタイの日常生活の中で失われることなく、大切に受け継がれている。
私が生まれ育った沖縄では、毎年旧暦の12月8日に月桃の葉で包んで蒸しあげるお餅、ムーチーを年齢の数食べる習慣があるが(もうこの歳になると、真面目に年齢の数なんて食べられない・・・)、月桃の香りが甘く、素材はいたってシンプルなお餅なのに、その香りがアクセントになってとても美味しいものである。葉っぱで包んだその見た目もやはり美しい。
平面状の葉っぱが自由自在に形を変えて、食材をまとめたり、食べ物を包んだり、容器となったりするのは、用途に応じて作られたプラスチックの容器とは違い、シンプルな形状のものにこそ無限の可能性が秘められているよう。一枚の正方形の折り紙から数知れない立体の造形を作ることができることと似ている。
四角いものでも、丸いものでも、長いものでも、どんな形でも包んで、端っこを結んで取っ手にすればバッグになる、と威勢よく日本の伝統文化なるものを誇らしげに説明したのだが、翌朝ブロンドヘアーで背の高い女性の教授は、和柄の風呂敷を無地のシンプルなワンピースと上手に色合わせをして、スカーフとして首のまわりに巻いて教壇に立った。目を丸くしてびっくりしている私と目が合うと、ウィンクをしてくれた。
なおえ スワンナチャン(Naoe Suwannachan)
沖縄県出身。津田塾大学国際関係学科卒業、在学中に英国エジンバラ大学へ留学。
2002年、服飾関係の仕事でタイ・チェンマイへ初めて来る。
仕事の契約期間の1年の駐在のつもりが、タイ人の夫と結婚して今年でチェンマイ滞在も13年目。
夫の旅行業務・撮影コーディネートの手伝いをしながら、服飾の仕事も続けている。