2015年10月15日木曜日

ロゴとシンボルマーク logo and symbol

この夏、日本からはオリンピックのロゴについて喧しい話が伝え聞こえました。ロゴやシンボルマークは、さまざまな商店の屋号、学校の校章、所属する地域や役所のマーク、そして商品やブランドの顔として国や地域を超えて親しまれています。
美しくて格好よくて、その指し示す内容が一目でわかるようなマークは皆に愛されます。しかし、どことなく稚拙で配色もおかしかったり、何を伝えているのかわからないようなマーク、「らしくない」マークは嫌われます。これはデザインの専門家であるとか素人であるとかは関係のない、至極明確なことです。

私たちsallabのロゴは、一見アルファベットの小文字をタイピングしただけのようにも見えますが、考え抜いて作られています。タイの特許庁に商標登録する際にも「文字ではなく、シンボルマークはないのですか? 文字を打っただけのマークは(登録が)難しいかもしれませんね」と言われたのを覚えています。もちろん文字を打っただけじゃないのですが……。
ちなみにタイの役所では、ロゴマークとロゴタイプの二つのロゴの認識が薄く、ロゴ=シンボルマークと認識されるようです(たまたまそういう担当官に当たったのかもしれません)。
いずれにしても、まだまだ無名の私たちです。まずは母語でしっかりと相談できるところから始めようと、幸い専門家にも恵まれ、日本を起点に各種登録申請を進めました。ロゴなどの商標や意匠、場合によっては特許など、知財の大切さとありがたさを実感するこのごろです。

ブランドを立ち上げて間もない私たちが、初期からこうして知財の重要性を強く意識するのには、タイに進出する日系企業の礎を築いた大先輩の存在がありました。1960年代に自動車メーカーの駐在員としてタイに渡り、タイ全土を巡りながら拠点を設立、現地の人々との関係性を構築しつつビジネスの素地を築かれた方です。
現在、多くの日本企業がタイの人々に受け入れられ、こうしてビジネスを展開できるのも、この大先輩の存在なくしては語れないと思います。70歳を過ぎた今も現役で現地法人のトップを務められ、タイで最大規模の法律事務所では顧問として日系案件のコーディネートをされ、また海外最大規模の日本人会であるタイ国日本人会の会長も務められています。
(そんな方とはまったく知らず、ある時たまたまお正月に日本行きの飛行機に乗っていたところ、日本の新聞の東南アジア版で、新春の挨拶としてこの方のコメントが写真入りで掲載されているのを見て腰を抜かしました)

ほとんど飛び込みでご相談にあがったどこの馬の骨ともしれない私たちの話を、とても丁寧に、そして親身に聞いていただき、バンコク中心部のタワービルの数フロアをオフィスとする法律事務所で、チャオプラヤー河を眺めながらタイ、東南アジアにおける知財の現状とその重要性を説いていただいたのを今も覚えています。

タイは東南アジア屈指の製造国です。商標をはじめとした知財の考え方、捉え方も日本や欧米とはまた違ったものがあります。それぞれ立場を変えてみるとわかりますが、コピーされる側とコピー商品を作る側、(商標を)守る側と攻める側ではその認識がまったく異なるということです。
ロゴの意匠デザインを例に取っても、日本や欧米は、それぞれの印象や独自性を重視して類似と非類似を厳密に区別するのに対して、この東南アジアの激しいオリジナリティの攻防の現場においては、尊重や重視などばかりはいっていられません。まずは先行者が苦労して作り上げ獲得した知的財産をいかに守るかこそが問題です。
当初はまったく理解できなかったし、何を言っているかさえわかりませんでした。日本のものづくり企業とタイの中小企業の両方の属性を持って製品を作る側としては、この現実は身につまされる思いです。

日本でも友人たちに助けられています。日本で長らく一緒に仕事をしてきた信頼するグラフィックデザイナーと、日本における知財関連の代理人となってもらった弁理士。どちらも大切な友人ですが、優秀な人と一緒に仕事をするのは楽しいですね。グラフィックデザイナー氏は日本国内よりもむしろ海外での評価が高い人で、独reddotで最高賞を受賞しています。弁理士女史は小中学校からの同級生で東大卒の才媛です。彼らは共に日本を拠点に仕事をしていますが、チェンマイの地でブランドを立ち上げた際に、とても力になってくれました。

まずは看板を掲げようとロゴを作り各国での商標登録、意匠登録もろもろを行いました。では看板は一枚でいいのか? というと世の中を見渡すとそうでもありません。日本の場合、よくある例としては欧文ロゴと平仮名(もしくは片仮名)ロゴ、縦書きと横書き、そして文字要素のないシンボルマーク。ほかにも印刷を前提とした場合は4cのカラーと1cのモノクロロゴも必要でしょう。配置するスペースによってはシンボルマークとロゴタイプの組み合わせや、またはどちらか一方というのも一般的です。

また、商標権は属地主義(各国の権利の効力が当該国の領域内においてのみ認められる)を基本としますから、ある国では大丈夫でも、また別の国ではすでに類似の商標が登録されている場合だってあるでしょう。
自動車メーカーの車種名などはよい例で、タイではマツダのATENZAは「Mazda 6」、トヨタのVitzは「YARIS」、ホンダのFITは「Jazz」として売られています。現地の言葉の語感やスラング等との関係、マーケティングの兼ね合いもあるでしょうし、また相手国の商標登録状況もあるでしょう。

そんなこんなで、私たちもさまざまな状況に柔軟に対応するために、複数のロゴ、市場ごとの現地ブランド名の用意も始めています。私たちは製品に「Designed by sal laboratories in Chiangmai」と記しています。チェンマイからさまざまな市場へ向けたものづくりを行ってゆきます。

私たちはこれから各国の市場へ向けたリニューアル準備に入ります。新しいロゴやブランド名も、しばらくしたらお見せできるかもしれません。(Jiro Ohashi)