非加熱、非塩析で、ひと月あまりの時間をかけて作るコールドプロセスソープは、洗浄という石鹸本来の働きはもちろん、新鮮な植物オイル本来の微量成分の効果や香り、そして何よりたっぷり含まれるグリセリンによる保湿効果が特徴です。
そうして作った私たちのマルチソープシリーズは、7%強のグリセリン分が含まれています。
一般的な石鹸に含まれるグリセリンの量は1%程度、多くても2~3%ですから、その量の多さは贅沢なものです。実際まだコールドプロセスが日本であまり知られていない頃、成分分析に協力してくださったメーカーの方も、後から添加したのでは? と驚くほどでした。
とはいえ、そもそも一般的なホットプロセスのソープは、石鹸を硬く溶けにくく長持ちさせるために塩析を行い、グリセリンなど、洗浄力の元である脂肪酸ナトリウム(石鹸分)以外の成分を石鹸から追い出すのですから、製法が持つ根本的な目的が異なっており、オイル本来の性質を楽しんだり、美容効果を目的とするコールドプロセスソープとは比較するのは筋が違う話とも言えます。
用途や目的によって使い分ければ、奥深く多様な石鹸の性質を楽しむことができると思いますが、とはいえ「石鹸」「ソープ」という名前により、無意識に同じように扱ってしまうのもまた現実でしょう。
もしも、なんとなく普段の石鹸と同じように私たちのマルチソープを使ってしまうと、必ず起きる不都合なことがあります。
初めてコールドプロセスソープを試した方ならば必ず経験する、そして私たちのマルチソープにも起きることです。
それは・・・
「あっという間に小さくなって使い切ってしまった」
「ソープディッシュに乗せて置いたらジェルのようになってドロドロに!」
「表面が糸を引いている!」
つまり、<とても溶けやすい>ということです。
なぜ、私たちのマルチソープに限って溶けやすいのでしょうか??
まず最大の原因は7%とたっぷり含まれるグリセリンです。
濃度の高いグリセリンは周囲の水分を引き寄せる性質があるため、チェンマイの雨季や日本の梅雨のような湿度が高い季節、外気に触れると空気中の水分を吸収し、表面にうっすらと汗をかくことさえある程です。
汚れを落としながら潤いも保ちたい洗顔時にはありがたいのですが、使っていない時にはちょっとハラハラしてしまう性質です。
もうひとつは、原料として美容効果を重視しているため、ソープにすると比較的柔らかいものになる油脂を使っていること。
例えば、エクストラバージンオリーブオイルは非常に柔らかい部類になり、アルガンオイルもどちらかといえば柔らかめに仕上がります。
様々な植物オイルを見渡してみると、リッチな手触りと美容効果があるオイルは比較的柔らかく溶けやすくなる傾向があるようです。
もちろん、なかにはココナッツオイルのように、石鹸にすると泡立ちがよく硬く締まり溶けにくいものに仕上がるものもありますが・・・。
こうした石鹸や油脂の性質から私たちのマルチソープの性質を読み解くと、アルガンソープのsumimou 102(http://eavam.com/sumimou102.html)は、ココナッツオイルも含むので、肌にハリを与えるといったリッチな効果がありつつも、コールドプロセスソープとしては、比較的溶けにくく長持ちだといえます。
肌への効果も抜群で、コールドプロセスソープを使い慣れない人でも使いやすい入門用とも言えるかもしれません。
そして少々悩ましいのはエクストラバージンオリーブオイルのみを使ったソープ、adatepe102です。
なぜなら、石鹸を作れば溶けやすいオイルの代表格であるオリーブオイルだけで作っているのですから・・・。
それでもオリーブオイル、しかも生産者も生産地も明らかで、安全で上質、食べても香り高く美味しいエクストラバージンオイルで作ったソープの肌への優しさといったらクリームで肌を洗ったよう。
デリケートな肌の方、赤ちゃんやお年寄りなど肌が荒れやすい方のためにも私たちはどうしても、このソープを作りたかったのです。http://eavam.com/adatepe102.html
そこで今回は、この少しばかりエキセントリックなadatepe102(エクストラバージンオリーブソープ)でも、最後まで楽しく快適に使い切れるよう、またもしも溶けかかってしまったソープでも無駄なく使う方法をご紹介します。
糸を引くようになった場合:
ソープの外側が少し過剰に水分を吸収し、石鹸分とグリセリンが溶けかけている状態です。
とはいえ、ソープ全体が水分を吸収してはいませんので、溶けかけた部分を減らしたり乾燥させることで、固型ソープとして最後まで使い切る余地があります。
*使い方
乾いたミトンや手でそうした部分を拭き取って、これ以上水分が全体に広がるのを防ぎます。
拭き取った分は、軽く水でぬらし、そのまま洗顔やボディにお使いください。
ジェル状になってしまった場合:
ソープ中のグリセリンが水分をたっぷり吸収して溶けてしまった状態ですが、ソープとしては品質も用途にも変わりなく使えます。
例えば、eavamの社内では、製造工程で出る整形によるソープの削くずなど製品化できないものを、あえてリキッドソープにして、スタッフの入室前の手の洗浄や設備の清掃、リネン類の洗濯に使用しています。
*使い方
1)ディスペンサーなどに移し、少し水を加えてリキッドソープに。
(ジェルの固さによっては水を加えても構いません。また精油を加えると香り付きのリキッドソープを楽しめます)
2)重曹を加えて練り、ディープクレンジングソープに。
ジェルの1/3程度の重曹を加え、クリーム状に練ったら、乾燥を防ぎながら保管します。
軽く泡立ててから小鼻など顔の角質や皮脂、肌理が気になる部分に軽く塗り洗い流します。肘や踵などにも(泡立てても泡立てなくてもお好みでかまいません)。
*ちょっと贅沢ですが、キッチンソープとしても優秀です。
3)モロッコのハマム風ボディクレンジングに。
モロッコでは、お風呂というと蒸し風呂のハマムが一般的ですが、そこではガスールやブラックソープと呼ばれる黒いジェルソープが洗浄料として用いられています。
この黒いジェルソープの原料は、食用のオリーブオイルを絞った後のポマス油です。
一方、私たちのソープはフードクオリティの中でも最も上質なものですから、これをハマム用のソープに見立てるならば、モロッコ風ボディクレンジングとしては極上のものと言えそうです。
*ハマム風ボディクレンジングの方法
ハマムとは、モロッコや中近東の蒸し風呂のこと。女性たちにとっては社交と美容の楽しい場です。
ここでは、ジェル状のエクストラバージンオリーブソープをクリームのように肌に塗って洗浄とボディパックを兼ねた身体の洗い方をします。
方法はとても簡単です。バスミトンや手にジェルソープを手に取り、泡立てずにそのまま肌に塗ってから、マッサージしながら洗い流すだけです。
日本では石鹸は泡立ててその泡で洗うものというイメージが強いと思います。ですがオリーブ油で作る石鹸分は、泡立ちがあまり強くないのですが、洗浄力はしっかりありながら、オイルの主成分であるオレイン酸が肌に滑らかな手触りを与え、保湿もするという特徴があります。実際には石鹸分を肌になじませれば、泡立ちにこだわらなくても、肌を洗い上げることができます。ハマム式のオリーブ石鹸の使い方は、オリーブオイルの性質を熟知したとても合理的な方法とも言えそうです。
石鹸、ソープの性質というと一般的な釜焚き方法のものを思い浮かべがちですが、これでコールドプロセスソープの個性を知ってくださったら、そして素晴らしい使い心地はもちろん、ちょっと気難しいところも楽しめると思います。海岸に流れ着いた大理石の小石のような、丸いフォルムの石鹸も清楚で素敵ですが、溶けた石鹸の使い方もなかなか悪くないと思っていただけたらと、思います。
次回は身近にあるもので、使い心地は抜群ながら気難しく溶けやすい極上石鹸「adatepe 102」(エクストラバージンオリーブソープ)を最後まで、紙のように薄く、5バーツ玉のように小さくなるまで使い切る方法をご紹介します!(花岡安佐枝)