2016年5月10日火曜日

お母さんとアルガンバーム   argan balm as stretch mark balm

先週の日曜日は母の日で、SNSなどもお母さんにまつわるエピソードや写真であふれかえりました。
タイは母系社会の名残が残る国で、お母さんへの敬慕にはただならぬものがあって妻より母の肩を持ってしまったり、甘えがちな男性の気性を表す「キットゥン・メー(お母さんが恋しい)」という慣用句があるほどです。
そんな優しく頼り甲斐がある母親像が生まれる背景のひとつとして、女性が仕事に就くことはごく当たり前のことなのもあるようです。警察などのようにほぼ男性ばかりの世界もありますが、市場で仕事をしているのはほとんどが女性ですし、銀行や役所のようなお堅い場所でも女性の数はとても多く、トップが女性なのもよくあること。タイに来て間もない頃、空港の出入国手続きの窓口の女性が子供の面倒を見ながら仕事をしているのに驚きつつ、受付ゲートつまりタイ国とその外の境界を3歳くらいの小さな子が「メー!(おかあさん!)」と叫びながら往復している様子にくすくす笑ってしまったこともあります。
最近でこそ託児所も増えてきていますが、子供同伴の出勤もままあることで、それに眉をひそめる人などおらず、むしろ皆んなで子供を世話しているような素敵な雰囲気です。

特にeavamのあるチェンマイ、つまり北タイはそんな文化が未だ色濃い地域ですが、象徴的なのは今でも家の跡取りは末娘なことでしょうか。
それは大家族が当たり前だった頃、兄弟でも年上と歳下では親子ほども年齢が違ってしまい、一族が代替わりする頃には 、それまで一家を支えてきた年上の兄弟たちも相応に高齢になっているため、まだ若くて気力体力とも充実した末の子が家長の役を担うのだといいます。
それを教えてくれたのは、製造リーダーのジャックさんですが、聞けば案の定というべきか、彼女も末っ子でした。
ジャックさんの取る有給の理由は大抵「家の用事」で、それはお父さんの通院や、他の家族の悩み事などの相談や問題解決に役所に出かけるためだったりするのですが、そういうことだったのです。

「そうか、それでジャックさんはみんなに気配りできて、家族のように大切にできるのね!」
と感嘆すると、
「あら、メーオさんも、ラーさんもそうだし、xxちゃんも末っ子よ。そうそう、あの子も、あの子もそうよ。うふふ。」
と、はにかみの中にそっと誇らしさもにじませて、もちろん例外もあるけれど、実は我が社は末っ娘率がとても高いのだと教えてくれました。
ジャックさんは、スタッフ入社の時は必ず書類審査も面接を自ら行いますが、この結果(末っ子率の高さ)は決して意図したのではなく、優しさと機転と寛容、しなやかな胆力を持つ人を選んでいたら。。というのが真相のようです。立場が人を育てるという好例かもしれません。

さて、そんな頼もしく暖かい妹の力に満ち溢れる我が社ですが、もう一つ特徴があるとしたら、いつも未来のお母さんが2人くらいはいる事です。
開業当初は、おめでたの話を聞くたびに、その人が出産後も仕事を続けてくれるかどうか、不在中の業務のやりくりや人件費の事で、ジャックさんも私もおもわず不安になったものですが、今では家族が増える事は当然・良きこととして支援できる就労規則やチーム構成もでき、ほとんどの人が復職し、復職するとなぜかチームの要になることも多く、おめでたと聞けば誰ともなく「また家族が増えたね! 子供たちのために頑張ろう!」と笑いが溢れ、幸せな気分がやってくるようになりました。
産休に入ったスタッフがいれば、経過見舞いや出産祝いに昼休みに一同出かけるのも社内行事になりましたし、こうして生まれた赤ちゃんが会社に来れば、社内の 空気は柔らかくほころびながら意気は上がります。
そのおかげか、あそこに正式採用されれば、安心して産休・育休も取れる、子育てもできると近隣では噂されるという嬉しい話も時々耳に入ります。
そして、それとともにもうひとつ社内でひっそり流行し、定着したものがあります。
アルガンバームで妊娠線予防のマッサージをすることです。

まだ会社ができて間もなくて日々はのんびりとしており、空いた時間には社内全員で原材料について勉強などができた頃のこと。
血行を良くするビタミンEが多く含まれるアルガンオイルは、モロッコでは伝統的にリューマチや筋肉痛を和らげたり、妊娠線を予防したり薄くするために用いられると、ラバト大学の先生に聞いた とスタッフ達に話したのです。
すると、それまで神妙に頷きつつ話を聞いたりメモをしていた誰もが顔を見合わせでざわざわと色めきたちました。
「あれ?? どうしたの?」
そのざわつきにちょっと私は驚いてしまいました。

「アサエさん! あたしら、それを早く知りたかったわ~! もう!」
と、姐さん格のエージョーさんたちが大げさな身振りでいいます。
「?」
「だぁってねぇ・・」
「??」
「ほぉら! 見てごらん!」
「うひゃっ!」
エージョーさんはTシャツを捲り上げで、お腹をばっ! と見せたのです。
ついで、スタッフの中でも陽気ないたずらものの何人かもお腹を見せるではありませんか。
なかには普段は、冗談話にも加わらず澄まし顏の若手まで加わっていて、そのコントのような様子にもう誰もが大笑いです。

「ほら見て、私ら何人も産んだでしょ? だからお腹周りには悩みが多いのよ?」

その頃、女所帯ならではの、解放されすぎてしまった女子校状態の雰囲気にまだ馴染めていなかった私の目の前に、並んだお母さんらしい柔らかなお腹、お腹、お腹・・。
なるほど大いなる母性を感じる少々ふくよかなお腹には、ぱっと見にも目立つ妊娠線が残っている人もいます、妊娠中や出産の時の言葉にならない大変さや苦労(もちろん、幸福もですが)は、想像に難くありませんでした。
「今からでも間に合うかしらねぇ?」
「傷跡などにも良いって、先生からは聞いたけれど・・」
「それはいいわね! がんばるわ!」
弾けすぎたおふざけもさらりとこなす、さばけた肝っ玉母さんも、それは一面。髪に 香りの良い花を飾ったり、晴れの日にはお洒落バッチリ決める優雅な一面も持っています。ふざけてみてもやっぱり気になっていたのでしょう。

そんな大騒ぎもすっかり忘れて1年ほど経った頃でしょうか。
ジャックさんが、スタッフの一人を連れてきました。
「ねえ、みせちゃったら?!」
不良少女のような、ぞんざいな口調でニヤニヤとちょっと悪い顔でいいます。
「それじゃあ・・」
連れてこられたスタッフもいたずらそうに、にやり。
「ほらねっ!」
ぱっと真っ白なTシャツが一瞬捲り上げられ、白い肌が見えたと思うと隠れてしまいました。
「彼女、お腹が大きくなり始めてから、毎日アルガンバームやオイルでマッサージしたんですって」
「クリーム製造で余ったのを塗っていたら、妊娠線、ほとんど出なかったんです。産んだ後もマッサージがんばったの!」
白いお腹の主も、くだんの大騒ぎの後、産休に入った一人でした。

固まる私を尻目にジャックさんが自分のことのように自慢げに語るには、あのアルガンオイルのモロッコでの話の後、社内ではクリーム製造時に出る、計量ボウルや湯煎鍋、撹拌棒に残った製品にならないクリームやオイルの残りの分配を手にするバトルは大変だったのだそうです。
普段から石鹸の削りくずなどの製造時に出る製品にならない分は、私たちは社内清掃などにまず使い、それでも余る分をスタッフ全員で分け合ってどの原料も無駄なく使いきりますが、貴重なアルガンオイルと蜜蝋だけで作るアルガンバームについては、もともと全員に足りるよう分け合う余裕がありません。それが、密かな女の競い合いの火種になったのです。

ともあれ、ベテラン母さんも新米母さんもシャワーのあとは、念入りなマッサージタイムとなり、それなりの人数がきちんと継続して相応に満足できる結果を得られ、なかには好みのハーブやオイルをさらに加えるレシピを編み出した人までいたのだとか。
新たにお母さんになった人の白いハスの蕾のような、丸く滑らかなお腹にドキリとしながらも、流石は身近にハーバリズムや、マッサージの伝統を脈々と受け継ぐ北タイの女性達よ。生活の知恵を仕事に反映させる機転がこんなところにも生きているのだと、私は改めて尊敬の念を深くしたのでしました。

スタッフの人数も増え、子育てがひと段落して先輩としての責任を負い、さすがに若気の至りや勢いでTシャツをまくりあげるわけにもいかなくなった人も増えてきたこの頃ですが、代わりに、今でもおめでたを迎えたスタッフには「ウチのバームは良いのよ、ちゃあんとマッサージしなさいよ! 後悔先に立たずよ!」と姐さんたちは、職人として、お母さんとして、未来のお母さんにささやくのだとか。

タイのお正月、ソンクラーンが明けて2日目、実質的な始業となった今日、朝礼で大きなTシャツのようなワンピースを着て、丸いお腹をちょっと苦しそうに、そして大切に抱いて座っている二人のスタッフの横顔を見ながら、ふと「Tシャツ事件」を思い出し、もう彼女らにも姐さんたちは我が社のバームを使った妊娠線対策の秘伝を授けたのかな? せっかくだからお祝い金のほかに、会社からアルガンバームもプレゼントするのはどうだろう?などと考えたのでした。
もし彼女たちの知恵を日本で応用するならば、マンダリンやネロリ、カモミールなど、妊婦さんにも優しい精油を少しだけ混ぜてみるのも良いかもしれません。

また、来年の母の日のプレゼントや、出産祝いにアルガンバームはいかがでしょうか。アルガンバームはマルチクリームですから、フェイス用に使えばアンチエイジングクリームとしても抜群ですし、肘や踵のざらつきを抑えるボディクリームとしてもとても優秀ですし、シンプルなレシピと優しい使い心地は赤ちゃんのあれ止めにもぴったりです。
ちなみに、タイの母の日はシリキット王妃の誕生日にちなんで8月12日で祝日です。その前日には、学校でお母さんに感謝を捧げるセレモニーがあり、学校に通う子を持つスタッフたちはちょっと誇らしそうに有給を取る日でもあります。

写真は、もうじきお母さんになるスタッフのひとり。手先がとても器用で真面目な彼女は入社間もない頃から実力を発揮、eavamの顔の一つでもある手漉き紙のトゥアナオ包みが実現したのも、彼女の技量のおかげです。来週から産休入りするため(とはいえ、今から復帰の意欲満々)、不在中に備えて後輩にその技術を伝授中です。(花岡安佐枝)

*eavamのバームは、トライアルセットの「kamakura set」(http://eavam.com/cream/kamakurasetb.htmlでお試しいただけます。近日中に単体製品として「ラベンダーアルガンバーム」もデビューする予定です。