2014年2月27日木曜日

こちらには、こちら仕様の・・・ big tank

会社で新しいプリンタを購入しました。普段私たちが使うのは所謂オフィス用のレーザー複合機ですが、今回新たに買ったのはインクジェットプリンタです。比較的安価な機材ですし、機種の選定はスタッフに一任しました。とはいえ「どんなものを選ぶかな?」と少しばかり興味を持って見守ってもいました。やはり価格優先で一番安いモデルにするのかな。もしくはその逆で奮発するのかな? CanonかなEPSONかな? それとも全然知らないメーカーかな? インクは染料/顔料どっちかな? スキャンやコピーは出来るかな? 最低でもWiFi搭載モデルだといいな。色は個人的には白がいいな。とかなんとか……。
そこまで言うなら自分で選んでメーカーと型番を伝えて買ってきて貰えば良さそうなものですが、まあとにかく今回はスタッフにお任せで買ってきてもらいました。

で、どんなのを買って来たかといえば、EPSONの(この選択はよいと思う)、ローエンド価格帯の(まあ質実剛健っぽくてよいか)、染料インクの(まあ無難)、スキャンもコピーも出来ない機種で(う〜む)、WiFi機能はなく(え〜)、色は黒の(なに〜?)、コンパクトな単機能のプリンタを買ってきました。

スタッフ4〜5人で共有するわけでしょう。せめてWiFi付けてもらえませんか!!! コピーくらい取れるやつは無かったですか! 色は選べるならば白にしてもらえませんか! と、人に買って来てもらっておいて内心ぶつくさ悪態をつきながら、憮然と箱から取り出してセッティグ。
するとなんだか特徴のあるボックスが本体に付いている。ハードディスク? いやいやPostScript対応のレーザープリンタじゃあるまいし、フォントとか入れておく必要などないはずです。よくよく見ると、それは本体横に取り付けられた巨大なインクカートリッジ・ボックスでした。私たちが見慣れた通常のカートリッジのインク容量は、1色10〜15mlくらいでしょうか? それがこのプリンタの場合、1色70mlの巨大なインクカートリッジが4発(4色分)装備されています。カートリッジというより、もはやこれはインクタンクです。こんなプリンタは見た事がありません。当然日本のEPSONのカタログにも載っていません。

そう、スタッフが選んで買ってきたのは、EPSONが新興国向けに開発した海外モデルL110、その名も通称“ビッグタンク”と呼ばれるプリンタでした。実はこの機種、こちらタイでは結構ポピュラーで、少部数印刷を請け負う街のプリントショップなどではずらりと並ぶ定番プリンタでもありました。
日本では低価格インクジェットプリンタといえば年賀状や写真印刷などの家庭用が主な市場ですが、こちらでは全く違います。バリバリの業務用/ビジネス用の書類プリンタとしても使われています。高価でトナーなどのサプライ品にコストのかかるレザープリンタよりも、本体も安価でインクも安いインクジェットが支持されています。印刷のクオリティはレーザーが上と思われがちですが、こちらの人は細かい事を気にしません。というか、最新のインクジェット技術は十分すぎるほどに美しい印刷クオリティです。

この安価でこなれたテクノロジーを、更に現地のニーズに合わせて最適化したのがこのプリンタです。年に一回の年賀状や、新しいデジカメを買った当初だけ行う写真印刷とはそもそも使われ方が違います。何十枚何百枚とヘビーデューティーに業務書類を印刷するには、巨大なインクタンクが必要です。その重さによる慣性が左右に動く印字ヘッドに負荷を掛けるのならばと、タンクを外付けにしてヘッドはノズルで繋ぎます。なるほど理にかなった仕様です。目的が明確ですからコピーもスキャンもいりません。常に稼働する専用機としてなら共有機能(WiFi)も省いてその分コストを抑えます。

こうした日本製品は実は他にもあります。代表的なものとしてはやはり“タイカブ”でしょうか。これは世界最多産の二輪車であり、日本でも出前や集金、小口配送などで活躍するビジネスバイクの代表、HONDAカブのタイ仕様車です。

もともとカブは「開発当時の日本の道路は悪路が多く、過積載などの無茶な運転も横行しており、それらを考慮して設計製造が行われていた。さらにはビジネスユースという点からも耐久性が重視されていることから、走行距離にして何十万キロ耐えられるのかはホンダでさえも「想像が付かない」との見解を下している。またエンジンオイルの代わりに天ぷら油や灯油でも問題無く走行するという都市伝説が存在する。ホンダ開発陣の見解は「公式に実験や確認を行った訳ではないながらも恐らく事実である」としている。これは各部が受ける熱や圧力が小さく、エンジンオイルへの負担が少ないという点に起因するものである」とあります(Wikipediaより)。

こうしたバイクはまさに今のタイで(特にチェンマイのような地方都市で)求められている乗り物です。タイカブはこのメイド・イン・ジャパンの傑作をベースに、タイヤホイール径や排気量を更に大型化するなど、現地仕様に最適化したバイクで、こちらでも圧倒的な支持を得ているタイHONDAが生産する“国民的バイク(モーターサイ)”です。
こういう製品を設計するのは楽しいだろうと思います。皆に求められるもの、支持されるものを作るのは、ものづくりとしても楽しいはずです。(Jiro Ohashi)