2015年6月8日月曜日

"夜討ち朝駆け"と"心地よさの源泉" It feels so good

テレビ局の記者時代、わたしのテーマの一つは「1分1秒でも早く寝る!」ということでした。”夜討ち朝駆け”が取材の基本。深夜に帰宅するとカラスの行水のごとくシャワーを浴び、化粧水を叩き込み、使い捨てコンタクトレンズを打ち捨てて、ベッドに倒れ込むようにして寝る!これが出来ればまだ良い方で、コートを着たまま床に転がって寝ていた日もありました。。当然、バスタイムを楽しむ余裕もスキンケアに時間をかけるゆとりも、、無い。

ズボラな性格は今も変わらないけれど、チェンマイに移住し、緑豊かな自然環境の中で暮らすうちに、少しずつ変化したこともあります。下水はそのまま土に還るのでまずは化学洗剤をやめる。油汚れは落ちにくいけれど、時間をかけて丁寧に洗えばいい。1日使い捨てタイプのコンタクトレンズもやめる。コンタクトを洗えば、1年に730枚ものコンタクトを捨てずに済むから。sal laboratories のガスールは1歳の息子と遊びながら時間をかけて溶かす。自然にも肌にも優しいものを使いたいから。

東京での仕事は楽しかったけれど、ありとあらゆる手間を省いた生活は、どこか寂しくて、味気なくて、他者や自然への優しさに欠けるものでした。ほんの少しの「手間ひま」を惜しまなければ、自然と調和して生きることが出来るー。そのことに、最近ようやく気付き始めた気がしています。

つい先日、sal laboratoriesの工房にお邪魔しました。外の光がたっぷりと入る白を基調とした美しい工房。働く女性たちの真剣なまなざしと凛としたたたずまい。ただそこにいるだけで、心が洗われるような、清廉とした空気感が本当に心地の良い場所でした。

案内をしてくれたディレクターの花岡さんは「ここで働いているスタッフはモノの性質を読み取るのがうまいんです」と話してくれました。
ガスールから不純物を取り除く作業はお米からゴミを取り除く作業に似ている。
胡麻から油を搾ることを知っているのでオリーブオイルやアルガンオイルの扱いもよく分かる。
紙袋に穴が空いていれば水をつけ繊維をこすって穴を塞ぐ。
ギフトセットの石けんは僧侶に贈り物を寄進する包み方で包装する

自然と寄り添って生きている彼女たちだからこそ熟知している「生活の知恵」とプロとしての「仕事」が一体となったものづくりー。その確かな仕事は、タイの歴史や生活様式に敬意を払い、彼女たちの能力を最大限に汲み上げようとする日本人スタッフたちの気配りと想いによって支えられていて、素晴らしい連帯感を生み出していました。

また「手間ひまを惜しまず、丁寧につくりあげる」という基本的な姿勢はあらゆる作業に反映されていて、廃棄物がほとんど出ないということにも驚かされました。ロット番号のスタンプに間違いがあればインクを抜いて修正し、石けんの削りかすは洗剤として使うー。その徹底した姿勢が商品の品質を支えているのです。sal laboratoriesが提案する「美しさ」にはブレがなく、細かな作業の1つ1つにもその「美しさ」が息づいているように感じました。

これまで化粧品や美容には疎かったわたしですが、いまはsal laboratoriesの商品の使い心地の良さに、すっかり虜になっています。「化粧品」という括りを超えて、生活に取り入れることで、文化に触れ、健康を意識し、他者や自然との調和を学ぶ上質なモノ。今回の工房訪問を通じて、その「調和」こそが、sal laboratoriesの商品の「心地よさの源泉」なのだということに気付くことが出来ました。

1歳の息子と安心して一緒に使うことが出来るのも嬉しいですし、彼がもう少し大きくなれば、伝えたい「ストーリー」もあると、今からワクワクしています。

谷岡 碧(Midori Tanioka)
84年、北海道札幌市生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒業。大学2年時にタイ・チェンマイにあるHIVに母子感染した子ども達が暮らす「バーンロムサイ」でボランティアを経験。以来「バーンロムサイ」の映像制作に携わるようになる。07年、テレビ東京に入社。報道局に配属され、記者・ディレクターとして5年4ヶ月勤める。在職中は社会部担当の記者として、秋葉原連続殺傷事件、小沢一郎議員の陸山会を巡る事件等を取材。東日本大震災の発生時には、翌日から現地入りし、南三陸町・気仙沼等で取材活動を行った。12年、テレビ東京を退社し、タイ・チェンマイへ移住。バーンロムサイにてボランティアスタッフを務める。15年、バーンロムサイを退職し、夫・谷岡功一とともにtetol asia Co., Ltd.を設立。