タイの田舎や市場でみかける「バナナの葉で食べ物を包む」その形を、チェンマイの手漉き紙を使って「ガスール」のパッケージに活かしたsal laboratories。昔から伝わるものに価値を見出し、新しいものを生み出す、チェンマイらしいものづくりだといえるだろう。
旧シープラカートホテル。その建物はピン川沿いのチェンマイーランプーン通りに面した場所にある。今年築110年になるチーク材と煉瓦造りの2階建ての古い屋敷で、一階の元客室を利用して、ホテルの歴史についての展示や手作り雑貨&食材のショップ、そしてレストラン&カフェなど、多目的に利用されている。
どんな様子か少しご案内しよう。まず、入って左側、3部屋の壁を取り払った、明るくて解放感のあるスペースがレストラン&カフェになっている。中央に置かれた大きなテーブルでは、食事に来た人が時に相席になったりして交流が生まれることもある。インテリアはいたってシンプル。年季の入った壁には昔のチェンマイを切り取ったモノクロームの写真が飾られ、天井から下がった小さなシャンデリアが温かい光を放っている。チェンマイではないような、そして今ではないような、どこか懐かしい時間が流れている。

この建物のあるピン川沿いのエリアには、100年ほど前に建てられたイギリス木材会社の事務所や商館など、コロニアル調の木造建築物が今もあちこちに残っているが、そのほとんどがブティックや高級ホテルとして利用されていて、一般の人が気軽に出入りできる場所にはなっていない。旧シープラカートホテルの持ち主であるギンゲーオさんは、「この場所を好きな人達が、いつでも自由に集える場所にしたい」と、広く一般に開放することにしたのだという。例えば、レストランのスペースは、人と会ったり、打ち合わせをしたりするのに自由に使ってほしいと語る。
元々この建物は、チェンマイ人で初めてアメリカに渡ったシーモーという人のお屋敷で、その後、病院や学校などいろいろな目的で利用された歴史がある。その後、チェンマイの人なら誰でも知っている有名なホテルとなったが、閉鎖されてからは長い間放置され、次第に忘れ去られていった。

先日訪れた時も、ホテルの片隅でチェンマイ大学の建築学科の学生が建物の調査をしていた。建物は老朽化が激しく、屋根には大きな穴が開いていて、雨が降ると1階まで水が流れ込むという。専門家の調査によって建物の安全性は確認されているものの、修復はこれからの大きな課題となっている。費用的にも技術的にも簡単な話ではないが、チェンマイの歴史的建築物の調査・保護の活動をしている若手建築家グループなどが協力して、この建物の保存と活用方法を一緒に考えている。ギンゲーオさんはイベントやレストランからの収益を貯めて、まずはホテルを支える柱を1本づつ直していきたいという。
つい最近は、ネパールで起きた大震災のチャリティーコンサートが開催されたばかり。その時は、手作り雑貨や食べ物を販売する店などが集合し、多くの人が訪れた。
価値がないと思われている建物の魅力を見直して、もう一度新しく甦らせる。旧シープラカートホテルの再生は、最近のチェンマイらしい現象なのだと思う。
古川節子(Setsuko Furukawa)
現地無料情報誌「ちゃ~お」編集、ライター。
徳島県出身。京都精華大学人文学部卒業。
在学時代から写真を撮り始め、タイフィールドワークでタイの田舎の暮らしに興味を持つ。
1999年からチェンマイに在住。北タイの様々な風習を中心に、北タイの魅力を写真と文で伝える。