2014年6月16日月曜日

エードーイさん、采配を振るう until the lights come back

日本と違ってこちらでは停電はわりとよくあります。停電の原因は送電システムの故障だったり、車が電柱にぶつかったから(!)だったり、はたまた予告なしの電気工事だったりしますが、特に雨期のこの季節、怪しげな雲が出始め、遠くで稲光が光り、竹薮の笹がざわざわと風になびき始めると、「あ、そろそろ来るかもなぁ」と思います。
先日も、午後の作業が始まってしばらくした頃に停電がやってきました。「わー!」「おーい!」「えー!」とあちこちからスタッフたちのどよめきが上がります。こちらの停電はわりとすぐに復旧することが多いので、しばらく様子を見ながら作業を続けます。が、この日は5分経っても10分経っても一向に電気はやってこず、そのうちしばらくの間保っていた作業も終わってしまいました。「こういう時はどうするのかなぁ」とパソコンの電源を落とした私は、興味津々で隅の方からこっそり様子を眺めることにしました。

リーダーたちが集まってスタッフの人数をもう一度数え直しています。この日は運悪くというか、作業内容がガスールのシーリングの日でした。私たちの会社で作る製品はすべてが手仕事で、数ある作業工程の中でも電気を必要とするのはこのシーリングしかありません。たまたまこの停電の日がシーリング作業の日だったのです。ガスールを計量して袋に詰めてもシーリングができないのではその後の検品・箱詰めができません。
相談し合っているリーダーの中心にいるエードーイさんはガスールを統括しているベテランスタッフです。このエードーイさん、ナチュラルメイク(ノーメイクの人もたくさん)が多いスタッフの中、いつもきちんとお化粧をして出勤する、ラジオから流れる歌謡曲をこよなく愛する姐さんです。
作業中に気づいた出来事を翌日の朝の顔合わせで全スタッフに伝え、全体を見渡して人手の足りないところをさりげなく手伝い、同じ作業の繰り返しでつい気が緩んでしまいそうな時には基本に立ち返らせる、そんな姿を見るにつけ、「さすが、リーダーたる人は違うな」と日々密かに感じていました。
 (写真左から二人目:エードーイさん)
「今日は作業をおしまいにして、みんなで掃除にでもなるのかな」と陰でこっそり盗み見していた私ですが、そうは問屋(もといエードーイさん)が卸しません。15分の小休止後には停電なんてまるでなかったかのようにみんなが違う作業についています。これには驚きました。だってこの日のスタッフは30人近くいたのです。30人のスタッフに仕事を振り分けるのはちょっとやそっとの年季でできるものではありません。さらに働き始めてまだ日の浅い学生アルバイトの横にはリーダーが控えている配置です。エードーイさんだけでなく、各リーダーさんの動きにも「さすが!」と感心せずにはいられませんでした。
そんな感心している私の心を知らず、エードーイさんはこう言います。「いつもならこんなにバタバタしないのよ。今はガスールの大量注文に応えるために石けんの作業をストップして全員体制でガスールをやってるでしょ。いつもだったら石けんチームを手伝いに行って、もっとスムーズなんだけど・・・」。
陰から覗いている私がプレッシャーだったのか、ちょっと言い訳のような弁解です。いえいえ、十分すぎる見事な采配でした。

ただ、このエードーイさんにもどうしようもない停電の余波がもうひとつあります。それは、エアコン・扇風機のたぐいが使えなくなること。雨が降る前の湿度の高さに加え、決して広いとはいえない作業スペースに30人近い人間がいるのです。入り口の扉を開け通気をよくして暑さを和らげますが、あっという間に蒸してきます。この日もみんな「暑い暑い」と文句を言いながらも、いつもと違う非日常をむしろ楽しんでいるかのような様子で就業時間まで作業を続けたのです。
結局この日は2時間に及ぶ停電でした。こちらの人たちにとっては雨期になればつきものの停電。愚痴を言ったって始まりません。ここでもタイの人たちの寛容さ、状況を受け入れる変わり身の早さに感心しました。(katsuyama