2014年1月14日火曜日

デモの中で  respect my vote

日本では、バンコクのデモの激しさが報道されていますが、私たちがいるチェンマイでもいよいよ昨日からデモが起きはじめました。
タイ第二の都市と言われてもそれは、歴史や格式において言われているのであって、人口や規模で言えば、はるかに大きな町は沢山ある、小さな地方都市です。
そして、スタッフ達が暮らすのは村の周りを水田やラムヤイ畑に囲まれたような昔ながらの村(ムーバーン)です。そんなこともあってか、どこか普段よりは微かに緊張した静けさを漂わせつつも、穏やかに毎日は過ぎています。

とはいえ、誰もが今の事態を良いとは思っていませんし、国というよりは最早、権力争いにも見えなくもない事態には、「話し合いで解決できないことは、他の国々に対して恥ずかしい」、「去年12月に、せっかく王様が何よりも、国の平和と反映のため、国民みんなで助け合い、団結して欲しいとおっしゃったのに。。」と、デモの熱狂とは違う声が聞こえて来ます。
親族に、ホテルやレストランなど観光業に携わっている知人達からは、キャンセルが相次いだおかげで、給与の額が減ってしまったという声もちらほら聞こえます。

普段は穏やかである事を好みながらも、いざとなれば思いきり声を上げる情熱を持つタイの人々は、羨ましく、その行動力は尊敬するばかりです。
しかし、死者が出たり、生活に困難をきたすような今の状態はもっとやりようがあるのではないだろうか……。そんな事を思いながら車を走らせていた出勤の途上。

こんな車を見かけました。
デリバリー用の瓶入り飲料水を満載し、その重さで車のタイヤがぐっと潰れ、ゆさゆさと荷台をゆさぶりながら走っている、年季の入ったピックアップトラックの後ろ。「Respect my vote」(私の投票を尊重せよ)と書いた紙が貼ってあります。
乗っているのは、初老の夫婦です。その文字は、パソコンで出力されたものでもあり、もしかすると子供か孫にプリントしてもらったかもしれません。
しかし、信号で運良く隣り合って車が止まり、私がじっと車の後ろをみて運転席のおじさんを見、目が合った瞬間、おじさんは、にかっと笑い、親指を立ててみせたのです。

ちなみに、この「Respect my vote」。そもそもは、アメリカのヒップホップアーティストのTIが、2008年にアメリカにおいて有色人種にとって一票がどれだけ大切であるかと、若者に向けて投票キャンペーンをしたのが始まりです。実際、2008年の選挙率は劇的に増加したそうです。
今のタイでは、この「Respect my vote」は、民主党にこの言葉を掲げて抗議した人物に共感するという意味もあるようでありますが、一方で、そもそもこの人物は、民主党反対派だった(本人は、党派とは関係ない、一国民として言ったのだとのこと)という説もあるようです。

いずれにせよ、反政府/新政府とは一線を画し、暴力的対峙に反対する人々が新たに、立ち上がり声をあげているのは確かであり、「Respect my vote」もその一つです。
様々な背景は思惑は別として、暴力によらない、そして自らの意志を示す一票を、個人も政治も大切にする事こそ、今求められているようです。
タイのみならず、きっと私たちの日本も。(Asae Hanaoka)