2015年5月8日金曜日

5月5日吉日 0505 good day

タイの人々は縁起を担ぐのが大好き、数字が大好き、そして宝くじも大好きです。以前私が車の免許を取りたてで(といってもつい最近のことです。春休みの高校生らに混じって合宿免許で取りました)、思い切り肩に力を入れながら国際免許でチェンマイの道路を恐る恐る走っていた時のことです。
基本、家と会社の往復のみで新しい道は決して走らず、信号の位置や車線変更のタイミング、交差点やカーブの位置を覚えて減速加速とハンドルの切り加減を習得する日々でした。ほんと「そういうことは教習所でやって下さい」というレベルの運転操作ながら、徐々にそれにも慣れてきて、狭小な私の心にも余裕が生まれ、気持ちが大きくなってきた頃です。

なんとか80km/hでハイウェイを飛ばせるようになり(チェンマイでは幹線道路はほぼすべてがハイウェイです。そこを車もバイクも自転車も牛も通ります)、調子に乗っていた矢先、会社の車庫(といってもユーカリの木で組んだ柱に草葺屋根の風情ある東屋です)からシビックを出そうとした時です。
ハンドルを切りながらバックで出ようとしたところ、あるところからなぜか全然動きません。「どうしたんだろう? 何か引っかかっているのかな?」と思いながらもアクセルを踏みますが、動きません。どこか当たっているような印象(?)もありましたが、車のことがよくわからない私は、えいっ!と更にアクセルを踏み込むと、何かつかえが取れたようにふわっと軽くなり、シビックはやっと車庫から脱することができました。

やれやれ、と思っていた矢先、わらわらスタッフたちが集まり駆け寄ってきます。「変だなあ」と車から降り、前を見ると前方のフェンダー、もしくはバンパー(というの?)がボコッと外れ、姿がシビックではなくなっています。ナンバープレートも取れてしまっています。片方のウィンカーはカチカチカチカチと素早い点滅をしています。

「これは大変だ!」と思いながらもイマイチ状況を解しない私に向かって、心優しいスタッフたちは口々に言います。「大丈夫です。車庫は壊れていません」(そんな状況だったんですか)、「私も免許取りたてのころよくやりました」(ほんとですか!)、「私なんかバックであの木(会社の敷地内の木を指差して)に突進して後ろの窓ガラス全部割りました」(そんなに?)。
そして何人かのスタッフはこう言いました。「事故は幸運と隣り合わせ。このナンバープレートは縁起が良いです。この数字で宝くじを買いましょう!」
無茶苦茶な論法ですが、私を慰めようとしてくれているのは痛いほどわかります。ただ肝心の私がまだこの事態をきちんと理解していないだけです。バーンさんに針金でフェンダーだかバンパーだかの大きな部品を応急的に取り付けてもらい。ナンバープレートはダッシュボートに立てかけて、「ありがとうございました」と皆さんにお礼を言い、明らかに整備不良のその車を運転して家へ帰りました。

そんな事をお伝えしたかったのではありません。タイの人々の縁起担ぎの話です。
私たちSAL Laboratoriesは製品の開発も佳境を迎え、6月の販売開始に先立ち、その製品デビュー、お披露目の日をいつにするかと皆で相談しました。そして5月であればまず間違いなく5月の5日でしょう。ということになりました。
こうした日取りを決めるのはおもに経理会計のブムさんです。彼女は大学で会計学を学び、合理的な経済原則とその機構を理解する30代の女性です。郊外ののどかな農村に育ち教育熱心なご両親のもと、高等教育を施されると同時に草木や自然を愛し、昔ながらの北タイの文化にも触れながら育った私たちのスタッフです。
彼女はランナーの暦にも明るく、何か物事を始めるのに最も佳き日を選んでくれました。2015年の5月5日は、555と5が3つも並ぶこのうえなき良い日なのだとか。それは西暦じゃないですか。単なる5並びじゃないですか。というのはナシです。ランナー暦でもこの日は近年になく最高に良い日にちなのです。

そういうわけで、5月5日を製品披露の日と決めた私たちは、その日に向けてWebサイトのリニューアルを進めました。制作は鎌倉のテトルさんです。タイの古都チェンマイと日本の古都鎌倉の、それぞれの会社の共同作業です。Facebookで「チェンマイ鎌倉」というクローズドのグループを作成し、互いに情報を共有しながらの作業です。
そして無事仕上がった新しい私たちのWebサイトで、SAL Laboratoriesは製品披露を行いました。価格やパッケージ、さらに詳しい仕様情報も、徐々にこのサイトで告知させていただきます。www.sallab.org

そしてこの記念すべき5月5日には、今年初めに完成した新しい工場棟のお祝いと、SAL Laboratoriesの製品披露を兼ねて、いつもより盛大なタンブンを行いました。近在のお寺からお坊さんをお呼びし、儀式のための飾りを設え、お供え物を用意し、工場の中もいつもとは表情が違います。
この日はタイの祝日で会社自体はお休みだったのですが、でもほとんどのスタッフたちが出社してタンブンに参加してくれました。かつて働いてくれていた近所のスタッフOB(OG)も食事作りを手伝いに来てくれました。
今回来ていただいたお坊さんも、いつもタンブンを行う際にお願いする方ではなく、相応に位の高い方にお願いして来ていただきました。今回の式次第を仕切ってくれたタイ人スタッフたちの思い入れの強さが伝わります。
そんなこんなで無事5月5日を迎えた私たちですが、これから6月のネットショップスタートに向け、まだまだ越えなければならない峠がいくつもあります。それでも、私たちの作った製品を皆さまに手にしていただける日は着実に近ずいています。(Jiro Ohashi)