ガスールのチェックは正直単調で、神経と集中力を総動員してチェックするため、本当にくたびれる作業です。途中に小休憩を挟むとはいえ、それでも1時間半ものあいだ集中し続けるスタッフの根気強さは毎回脱帽ものです。15分間の小休憩の時には「疲れた〜。目も身体も休ませなきゃ。」と言って思わず横になるスタッフもいます。
ガスールは自然の産物ですので、ひとつとして同じ状態のものはありません。一見同じように見えても、その密度や色・硬さ・手触りはすべてのLOTごとに異なります。
例えば、モロッコで天日干しをしている最中に小雨が降ることもあります。風に乗って花の綿毛が飛んでくることだってあります。夏と冬では40℃以上も気温差があります。こうした製造工程での環境の違いは、もちろんガスールの仕上がりにも影響があります。また、ガスールが生成されたのは鮮新世(地質時代の一つ。約500万年前から約258万年前までの期間。新生代の第五の時代。新第三紀の第二の世であり、最後の世。 パナマ地峡が形成され、ヒマラヤ山脈の上昇が激しくなった。:Wikipedia)という想像さえ及ばないほど太古の時代です。長い年月を経て掘り出された地球の産物であるガスールの状態は毎回違って当たり前です。
見過ごしてしまいそうなほど小さな枯れ草が付着したガスールを手に取り、「あぁ、この日のマラケシュは風が強い日だったのかな」とか、フワフワした羽毛を摘まんでは、「モロッコにいる鳥ってどんなのかな」とか、小雨にあたって水玉模様を付けたガスールを見て、「モロッコのスタッフは雨が降って来て慌てただろうなぁ」と、想像はどんどん膨らみます。
枯れ草も羽毛も水玉模様も、すべては自然の恵みからもたらされる事象です。ただガスールが商品となった時点で、これらは一転して異物となります。私たちは、ガスールの裏面・表面、さらに側面まで一枚一枚これら自然界からのおまけに目を光らせます。延々と続くこの作業が疲れないはずがありません。
研修中に幾度となくこの工程に入りましたが、一作業時間当たり一人4kgという目標重量にはまだ一度も達することができずにいます。同じグループのスタッフ達は軽々と4kgを超え、中には6kg越えの強者もいます。あくまでも目標重量であってノルマではないものの、私としてはいつまでも「新人だからね」と優しい言葉を掛けてもらうのも悔しくなり、「次こそは4kg!」と時計を作業机の脇に置いて、少しでも早く・たくさんできるように、相手のいない自分との戦いに腕まくりをします。
そうして精一杯頑張っても3.2kgそこそこ・・・。今日もダメだったか、と心底ガッカリします。こうして気を張りつめた作業の一日を終えると、肩はガチガチ、お尻は痛いし、もう放心状態になるくらいに疲れます。帰宅して夕飯の支度なんてとてもじゃないですができそうにありません。そしていつも「スタッフのみんなは本当にすごい・・・」としみじみ思うのです。
そんなある日、何とも心ときめく出来事がありました。クオリティコントロールを担当しているケッグちゃんが「こんなのがあるの、知ってる?」と一冊のファイルを見せてくれたのですが、そのページを開いた途端、私のハートはきゅんと音を立てて見事に打ち抜かれました。
ファイルには、チェック中に見つけた、面白くてかわいい形のガスールがスクラップされていたのです。「か、かわいい〜♡」とはしゃぐ私の横でケッグちゃんが「これはハート型でしょ。これは犬、魚、Tシャツにパンツ・・・」と説明してくれます。どんどんめくっていくと最後のページには「LOVE JAC 」とありました。あとKのピースさえ揃えば、「LOVE JACK」になります。ジャックさんと言えば、スタッフ全員が全幅の信頼を寄せているSAL
Laboratoriesの統括マネージャーです。これは何としてでも最後のピースを探し出さねば! と心に火がつきました。
単調になりがちな作業にこんな楽しみを見つけるなんて、なんてお茶目で遊び心のあるスタッフたちなのでしょう。それでいて仕事は細やか、職場はいつもにぎやかな笑い声であふれています。ますますみんなのことが好きになりました。
次にガスールのチェック作業に入った時には、「早く・たくさん」の心とはうらはらにKの文字を探してしまうことは間違いありません。目標に到達できる日はますます遠のきそうです。(Katsuyama)
*写真はガスールの欠片で作ったファイルページの現物。添えられた花は会社の庭に生えている「ケー」という豆科の植物。こちらではスープ等に入れて頂きます。ジャックと豆の木。