2014年5月8日木曜日

はじめての石鹸づくり beginnings is essential

正直なところ今まで石鹸というものへの熱はそれほど高いものではありませんでした。強いて言うなら、肌の弱い私は、液体のボディソープはメーカーによっては赤く発疹が出たり痒くなったりするので、固形石鹸の方が私の肌には合っているのかな、という程度でした。
ついこの間まで石鹸についてはその程度の関心しか持たなかった私が、先日、生まれて初めて石鹸を自分の手で作ることになりました。
 まず初めの衝撃は、「石鹸はオイル(油)からできている」ということ。スーパーマーケットなんかで身近に売っている食用のオイルが使えるその手軽さに驚き、と同時に、「どうしてオイルが原料のもので汚れが落ちるの?」と新たに疑問も生まれました。全くの素人の素朴な疑問です。

ここSAL laboratoriesでは、「今日は、ガスール製造の日」や「石鹸用オイル計量の日」や「石鹸を混ぜる日」など、細かく作業のスケジュールが組まれています。それ以前の行程も綿密で、日本からのオ−ダーを受け、モロッコやトルコやタイ国内からそれぞれ原材料を調達し、オイルの品質をチェックし、出荷日に合わせて作り始めます。
これは書くほどに簡単な内容ではないのです。オーダーの調整・輸入に向けての準備・到着日の計算・品質のチェック・・・、そういった数えきれないほどの行程を経て、さらにガスールやクリームなど他製品の製造ペースも見ながら、ようやく石鹸作りの作業スケジュールが組まれます。ここまでたどり着くまでにも、各国の原材料それぞれの担当者をはじめ、輸入に向けてもろもろの書類の準備を担当するスタッフ、在庫や品質担当のスタッフなど、大勢の協力により成り立っていて、これらの誰か一人でも欠けるとできなくなります。まだ働いて日の浅い私にも、国を超え、様々な機関と連携してのチームプレーの難しさは理解できます。

少し話がそれましたが、このようにたくさんの人がきちんとした仕事をして準備をしてもらった材料を使って、私も石鹸を作りました。これも大切な現場研修です。
原料となるオイルや苛性ソーダは前日のうちにきっちり量って準備をしておきます。私たちの製品「アルガン石鹸」にはその名前にもあるようにアルガンオイル、それからエキストラバージン・オリーブオイル、ココナッツオイルの3種類が使われています。これらのオイルが計量されて一列に並ぶと、赤・緑・黄ととてもきれいなのです。
一度の石鹸作りで145gのアルガン石鹸が320個できるのですが、オイル計量の際には1gの単位まで一滴一滴調整します。根が大ざっぱな私は、「320分の1gだったら大した違いはないのでは」なんて思ってしまいましたが、オイル計量担当スタッフ(スタッフなら誰でもやらせてもらえる作業ではありません。きちんと役割が決まっています)の目は真剣そのもの。
精密なグラム秤の数字を睨みながらオイルの入った容器を傾けたり、上げたり。ピタッと一度で決まり、「さすが神業!」と思わせるときもあれば、5gオーバーで悔しいため息を漏らしたり、とオイル計量からも仕事に対する真剣味がひしひしと伝わってきます。
石鹸は化学反応の産物です。鹸化に必要な苛性ソーダの量はオイル(油脂)1gに対してミリグラム単位で厳密に決まっています。たとえ小さな誤差でもその仕上がりには大きな影響を与えます。

石鹸生地を流し入れるステンレス製の長方形の容器もピカピカに磨き上げられ、いよいよ緊張の時間、原材料オイルと苛性ソーダを混ぜる時が来ました。こればかりは人に手伝ってもらうわけにもいかず一度混ぜ始めると20分間は手を止めることはできません。「ここで失敗したら今までの数えきれない人たちの努力を無駄にする」と思うと、それだけで手が汗びっしょりです。
8人のグループが2人ずつ、リーダーの合図を待って5分間隔で混ぜる作業をスタートしてゆきます(この5分差にも意味があります)。もう遥か昔、学生時代の「鉛筆を持って、はいスタート」という試験の緊張感がデジャブで蘇りました。最初は苛性ソーダとオイルをしっかり混ぜるために力を込めて、様子を見ながら徐々に混ぜ方も変えていきます。

「ほら見て。泡が出てきてるでしょ、少し力を緩めて」と言われ、慌てて周りを見ると、みんなの石鹸生地は卵たっぷりのカスタードクリームのようなとろりとおいしそうな仕上がりです。変な所に力が入って腕が痛いのを我慢して、ようやく長い長い20分が終わりました。このできたてほやほやの生地をステンレス製の容器に間髪を入れずに注ぎ分けます。ここもオイル計量の時と同じでピタリと一度でグラムを合わせます(いえ、合わせてもらいました)。
これも初めて知りましたが、できたて(混ぜたて)の石鹸は熱いのです。これはオイルに苛性ソーダが反応して熱を発生させているからですが、注ぎたての石鹸生地はステンレス容器を思わず落としそうになるくらい熱くなります。
これを温度計で頻繁に測って適温に保ち、一晩置いたら切り分けます。色は前日よりも少し白っぽくなったような、まるでホワイトチョコやチーズのような感じです。とても美しいので思わず触りたくなりますが、「危ないよ、肌に触れると痛痒くなるよ」と言われ、思わず手を引っ込めました。このあと、約1ヶ月かけてゆっくりと鹸化熟成(オイルが石鹸に変化)していきます。私が作った40個の石鹸たちも涼しい部屋でどんな反応をしているのでしょうか。

この研修作業と同時期に「石鹸とは何ぞや」というレクチャーも社内であり、ただいま石鹸について勉強中です。石鹸と一口に言ってもとても奥が深く、調べれば調べるほど迷宮に迷い込みそうですが、グルグル回る洗濯槽やお風呂場でいくら泡を見つめても答えは出てきません。ひとつずつ知識を深めていこうとあらためて思いました。(katsuyama

*写真は、温度湿度を24時間コントロールされた専用の冷暗所で鹸化熟成中の石鹸たちです。