2015年8月4日火曜日

ほしはなヴィレッジでのチャリティー・パフォーマンス performances in sala

チェンマイ旧市街から南に車で約30分。自然に囲まれたリゾート・ゲストハウス「ほしはなヴィレッジ()」で、7月最後の週末2日間、ダンスと音楽のチャリティーイベントが開催された。と書くと、まるで他人事のようだが、25日に行われたダンスパフォーマンス「topology of the skin」は、SAL Laboratoriesサルラボラトリーズ)の花岡安佐枝さんと大橋二郎さんによるコンテンポラリーダンスの舞台で、26日の沖縄音楽のライブ「島の祈り」には、私も参加させて頂いた。

ほしはなヴィレッジの敷地内には、一棟ごとに造りの異なる素敵なコテージが建っている。その中で、昨年、多目的スペースとして建てられた「sala」という建物が今回のイベントのステージとなった。

salaは、シバナンダ・ヨガのシータ先生こと寺崎シータ由美子さんらが中心となり、バーンロムサイの活動に共感した100名以上の日本の方々によるクラウドファンティングで寄付金を集めて建てられた建物だ。salaとはタイ語で「あずまや」の意味。円形の、風が吹き抜ける心地よい空間で、中心に建てられた一本の太い柱が大きな草葺きの屋根を支えている。ドアはもちろん、壁もなく、あちらこちらから自由に入ることができる。普段はここで宿泊客がマッサージの施術やヨガのレッスンを受けている。シータ先生によるヨガリトリートも人気で、日本からも大勢の参加者が訪れ、ほしはなヴィレッジに宿泊してヨガを深く学び、心も体も健やかになって帰って行く。私も参加したことがあるが、salaでのヨガは呼吸が自然にゆったりと整い、穏やかで心地よい感覚だった。

今回はこのsalaを活かした面白い企てのひとつとして、声をかけて頂いたというわけだ。

花岡さんのダンスの素晴らしさは噂では聞いていたが、みせて頂くのは今回が初めてのことだったので、嬉しくて仕方がなかった。
本番の夜。土砂降りに見舞われたリハーサルとはうって変わって穏やかな月夜だった。郊外にあるほしはなヴィレッジまで足を運ぶお客さんには、チェンマイで活躍中のダンサーの顔もあった。皆、楽しみに来ているのが表情から見てとれる。美味しいおにぎりやお惣菜の串、ワインや梅酒などを楽しんだ後、ステージがはじまった。


Photo:Teerapat Tongkao

ナチュラルで素朴なsalaに、大橋さんの音響や照明の機材が並べられると一変してステージらしくなっていた。複雑に張り巡らされたコードは秩序を持ってまとめられ、床には無数のライトが等間隔に並べられている。リモコンで照明を操作する大橋さんは、まるでコンダクターのよう。その隙間を、時には雄象のように猛々しく、時には羽毛のようにふわふわと舞踊る花岡さん。その動きに一瞬の瞬きも惜しんで見入ってしまった。

花岡さんは白と黒のシンプルな服装で、指先から爪先まで全てに神経を行き渡せた美しい体の動きで、見る人を魅了した。指先の表情や眼差し、息遣いが聞こえそうなほど間近に感じることができるのも、salaのステージならではといえるだろう。

音楽と照明の変化と共に、様々なダンスの表現が展開された。花岡さんは小柄で、普段は繊細さと柔らかさを兼ね備えた少女のような方という印象を(勝手に)持っていたが、右手を高く上げたポーズでは花岡さんの背が2メートルくらい伸びたように見えた。ふっと重力から解放されたような、水中で漂う花のように見えることもあった。下からの照明がsalaの草葺きの屋根に花岡さんの影を写し出し、2重に重なった動きが不思議な効果を生んでいた。

大橋さんの創る音と光の世界の中で、一言も発せず、体の動きだけで表現する花岡さん。その動きはとても雄弁で、彼女の指先は目に見えない何かに触れ、大切に持ち上げ、慈しむ。花岡さんの動きから、見る人の美しい記憶が引き出されていく。
文筆家としても活躍されている花岡さん。言葉も体も自在に操る彼女の頭の中は一体どうなっているのだろう
これまでSAL Laboratoriesの商品を通してしか知らなかったお二人に、一流の表現を見せて頂き、ますますファンになってしまった。

そんな 花岡さんの芸術的なダンスの後に、沖縄音楽という取り合わせは、それにしてもかなり自由である。これもsalaという場所のもつ懐の深さのおかげなのかもしれない。

私たちのバンド「想音(うむいうとぅ)」は、沖縄出身の河原弥生さんの呼びかけで結成し、1年くらい前から北タイで演奏をしてきた。沖縄の民謡協会に所属している河原弥生さんは沖縄県立芸術大学で音楽を専攻した後、中学校で音楽教師をしていたが、ご主人で彫刻家の河原圭佑さんがチェンマイ大学美術学部で講師をすることになったのをきっかけに、チェンマイに移住。彼女の母親はピアノ教師だが、弥生さんはその母親にほとんど習うことなく、自然にピアノが弾けるようになったという才能の持ち主だ。

沖縄音階の持つ明るさ、三線の音色、民謡の節回し、カチャーシーの踊り出したくなる躍動感など、沖縄音楽は魅力たっぷりだ。本土の人は、このような土着の文化が色濃く残る沖縄に少なからず羨望があるのではないかと思っている。私もそんな一人だ。
私はバンドの練習を始めてから、音楽だけでなく、沖縄の歴史や沖縄で起きている様々な問題について身近に感じるようになった。沖縄で生まれ育った弥生さんの話から、一般的に報道されているニュースがどれだけ断片的であるかを知り、沖縄の人の苦しみに対し、もうしわけなく感じずにはいられない。

とはいえ、バンドをやるまでは沖縄に対してほとんど無関心だった。私のような人は少なくないと思うが、沖縄の音楽に親しむことで、関心を持つ人もいるのではないかと思う。弥生さんの歌う沖縄の歌にはそんな力があると信じている。

さて、本番はというと、弥生さんとチェロのハウス君以外のメンバーは「ど素人」なので、失敗も多々あったが、集まってくれたお客さんの温かい手拍子や、ほしはなヴィレッジのスタッフの方々と音響の大橋さんの尽力のお蔭で、なんとか11曲の沖縄の曲を演奏することができた。「歌詞の意味は分からなくてもそんなの問題じゃなかった。こっそり泣いちゃったよ」と、ライブに来てくれたタイ人の友人が感想を伝えてくれた。

最近はFacebookなどSNSで誰がどんな風に考えているのかが分かることもある。これからの未来を考える時、漠然とした不安に襲われるが、また同時に、思想で人を判断し合うのは危ないことだとも感じている。アートや音楽はどこまでも自由で、人々の希望でなければならないと思う。

この2日間、salaにはいろんな考えの人が集まって、一緒にダンスや音楽を楽しむことができた。世の中には多様な人種、価値観があるのは当たり前のこと。攻撃し合うのではなく、安心して楽しい時間を共有できればどれほど豊かだろう。どこからでも自由に入れるsalaは、どんな人も一緒に、ヨガや音楽、アートを楽しむのにふさわしい場所なのだと思う。
ほしはなヴィレッジの収益は孤児たちの生活施設バーンロムサイの運営に利用されている。2009年上映の映画「POOL」の撮影現場にもなった。http://www.hoshihana-village.com/

古川節子(Setsuko Furukawa
現地無料情報誌「ちゃ~お」編集、ライター。
徳島県出身。京都精華大学人文学部卒業。
在学時代から写真を撮り始め、タイフィールドワークでタイの田舎の暮らしに興味を持つ。
1999年からチェンマイに在住。北タイの様々な風習を中心に、北タイの魅力を写真と文で伝える。