2014年8月4日月曜日

パッケージのことば  message from the package

タイで化粧品の製造販売を認可するのは、タイ国厚生省食品医療局(FDA)です。日本でいう薬事課にあたります。タイ語では「サムナックガーン・カナカマガーン・アハーンレヤー」と言うのですが、名称が長いので、「食品(アハーン)」の子音の呼び名「オー」と「薬(ヤー)」の子音の呼び名「ヨー」をとって、タイ人は略して「オーヨー」と呼びます。
そのオーヨーでは、関連事業者向けのセミナーが年に何回か行われています。オーヨーの案内によると、今回のテーマは3つあり、その中の1つがコスメティックパッケージに関するものでした。私たちの会社では、製品のパッケージをタイ国内で調達しています(とてもシンプルなパッケージです)。また、ちょうどお客様からの要望でパッケージの変更を行っていた頃でもありましたので、タイ国内のコスメティックパッケージ事情を知る良い機会と思い、このセミナーに参加しました。
主題「コスメティックパッケージはなぜ重要なのか」のトピックは、パッケージの重要性、タイ国内での主要なコスメティックパッケージ、中小企業においてのコスメティックパッケージ改善の必要性、コスメティックパッケージのトレンドとモデルとなる好例と、どれも興味深い内容でした。日本をはじめとした諸外国のコスメティックパッケージとの比較が行われることもあり、タイ国内のコスメティックパッケージの問題点と今後の課題が示されました。近年では、国外に進出するタイ発のコスメティックブランドも増え、洗練されたパッケージを目にすることもあります。その一方で、表情の乏しい、表現力にも欠けるパッケージも店頭に並んでいるのが現状です。

セミナーでの講義を終えて、改めて「パッケージ」に着目すると、いろいろなことに気づかされました。

例えば、コスメティックに限定せずにタイのパッケージを見ると、心を動かされるものが中にはあります。市場に出かけると、新鮮な葉野菜が、チークの大きな葉っぱにくるまれて売られています。家に帰って台所でその包みを開けると、中の野菜はひんやりと冷たく、その美しい緑に心を奪われます。
また、タイのお菓子を買うと、バナナの葉っぱで包み、それを楊枝のような竹のスティックでとめてくれます。食べる時には、その包みを掌にのせ、バナナの葉をお皿代わりに、竹の楊枝をフォーク代わりにしていただきます。
市場で見かけるものは新鮮な葉を使ったものがほとんどですが、乾燥させた葉をパッケージにしたものもあります。「ガラメー」と呼ばれる、ココナッツミルクと餅米で作った柔らかいキャラメルのようなお菓子は、乾燥させたバナナの葉で包み、竹の楊枝でとめてあります。その包みを開けると、ガラメーの甘い香りよりも先に、バナナの葉から漂うお茶のような芳ばしい香りが楽しめます。プラスチックや紙の袋にはない、しなやかさと美しさに惹かれ、心を豊かにしてくれます。そして、パッケージの効果なのでしょうか、とてもおいしく感じるのです。

もちろん、発泡スチロールのトレイにラップ、もしくはビニール袋に入って売っている野菜やお菓子もたくさんあります。それはそれで、機能的で清潔に見えます。また、ガラメーの中には、プラスチックのフィルムでくるまれた色とりどりのものもあります。それもまた、目に楽しいです。しかし、なぜかそれらとは違う昔ながらのパッケージに惹かれてしまいます。素材のもつ慎ましい色のガラメーを包む、バナナの乾燥した葉。朗らかなおばさんが切り売りするお菓子を包む、青々としたバナナの葉。朝露で濡れている葉野菜を包む、瑞々しいチークの葉。中身が語ろうとすることを外側のこのトラディショナルな包みが代弁しているように思えます。その言葉を、中のものを取り出す行為を通じて、香りや手触りから感じ取ることに喜びを感じているのかもしれません。

一方で、パッケージングの難しさを実感したことがあります。私たちの会社の製造研修では難関とされるクリーム部門で、パッケージングを体験した時のことです。50mlのアルガンクリームの陶器の器は、箱に入れる前にサーペーパーで包みます(サーペーパーは、桑の樹皮から作られる手透きの紙です。木を伐採することなく生産される、環境にも優しい紙です)。ギフトショップ等でよく見るサーペーパーは厚手で、紙袋やノートに加工されたものがほとんどです。しかし、私たちが扱うサーペーパーは、包む陶器の器が透けて見えるほど薄い紙です。あまりにも薄いので、紙というよりも布のような感触で、柔らかくたわみます。そして、少しでも強く引っ張ると、すぐに破れてしまうのです。アルガンクリームに負けず劣らず繊細で、扱いには慎重さを要します。

そのサーペーパーで陶器の器を包む様子は、デリケートなアルガンクリームの製造工程をそのまま彷彿とさせます。静かに進む時計の針のように、繊細なサーペーパーから音もなくプリーツが生まれていき、堅実な面持ちの陶器の器を包み終わると、器の表情が柔らかく変わります。熟練のスタッフの動きには無駄がなく、流れるように作業が進みます。ですが、素人の私の手には扱いづらく、真っ直ぐできれいなプリーツを作ろうと指に力が入った瞬間、サーペーパーは儚く破れてしまうのです。デリケートは製品を世に送り出すための苦労を、パッケージングを通して感じました。

自分が研修中に破ってしまったサーペーパーを見つめながら、どんなものを包もうかと想像を巡らしています。(Miyajima