2016年5月24日火曜日

雨季の始まりとホームスパ  at the change of rainy season

今年のタイは数十年に一度という未曾有の大干ばつでした(過去形で書いていますが、まだ解消されたわけではありません)。
さいわいにも、私たちの会社に掘られた深い井戸の水脈は枯れることなく、飲料水のデリバリーや市内での水道水の供給は普段どおりと、私たちは比較的普段と変わらず日々を過ごしていますが、普段は疎ましい蚊も、増える水たまりを無くして居なくなってしまいました。
そしてチェンマイ郊外はとても深刻です。工場団地や病院での水不足が慢性化し、家庭でも断水が度々あります。北タイ特産の果物ラムヤイの果樹園でも給水がままならず、木が立ち枯れる地域が増えています。報道では貯水ダムの水量が10%を切ってしまったこと、山中の有名な滝や農業用水の供給元の大きな河が干上がっていることなどを連日伝えています。

かくも空気も地面も乾ききってしまうと、行き所を失った地上の熱でさらに乾燥が進む悪循環が起きるのか、この数週間は最高気温は40度を超え、夜になっても30度を下回らない日が続きました。そんな中では、人は日中は天頂にある太陽のまばゆさから逃げるように、少しでも涼しい場所や空調を効かせた室内で暑気をやり過ごすよりありません。
タイは北回帰線より南側にあるので、太陽が頭の真上にくる日が2回あり、今はまさにその最初のピークの前後でもあります。
この2つの日の間は自分よりも北側に太陽があり、南に短い自分の影が見られるので、例年ならば、多少暑くても北回帰線の外で生まれた身にはちょっぴり不思議な方向感覚のブレを楽しめるのですが、今年はこの天体の運行や自然現象に眼差しを向ける気持ちさえ、暑さに薄れそうになってしまいます。

しかしこの天体の運行や地球を覆う大気の流れの変化、それによる季節の移ろいは偉大です。
2年にわたる乾きと暑さをもたらしたスーパーエルニーニョやインド洋のダイポール現象は、自然の摂理の恐ろしい非情の面を見せましたが、今週に入ると厳しさの中にも優しい慈しみの顔を今度は表してくれたようです。あたかも欠けていた月が少しずつ豊かなな輝きの面を膨らませていくように。
というのは、強烈な嵐「パユッ」が頻繁に来るようになったのです。
この嵐の連打のために家の屋根を吹き飛ばされたスタッフさえ数名いるのですが、ほとんどの家は農業も営んでいますから、皆んなほんの数分でも降る雨は嬉しいのです。風が吹くと「雨が降るかしら」「雨降れ!」そんなつぶやきが業務中にも聞こえ、朝の挨拶は「お家の周りは雨は降った?」でしたから。

実際このかすかなお湿りでも効果は甚大で、わずかな水を上手に活かしジャスミン畑や生垣、ラムヤイの木を守りおおせた庭師のバーンさんの厳しい顔もほぐれましたし、木陰や家の冷たい床下の土に穴を掘り、そこにお腹をあてがって酷暑をしのぐため、朝しか顔を見せてくれなかった番犬兄妹は、ひっきりなしに事務室まで笑いながらおやつをねだりにくるようになりました。
何より驚くのは、こんなに外は賑やかだったのか? 香り高かったか? と思うほど、花の色や香りは鮮烈になり、その中を鳥たちが鳴き交わし、虫たちも忙しく飛んで、あたりに小さな生命の存在が満ちはじめていること。
乾いて封印されていた恋情や生命が一気に解き放たれて、艶かしいことこの上なく、人にも伝染しそうなほどになったことでしょうか。

さて、そんな嵐が来始めた水曜日、ちょっとした「事件」が起きました。
午後、ジャックさんが目を泣き腫らしてやってきました。
聞けば、終業後マンゴーを取ろうとして樹下のロッカー室の屋根に穴を開けてしまったスタッフたちがいたとのこと。しかしそれを報告しなかったために、ロッカー室に雨漏りがしてしまった。そのこと自体は本当は笑い話にだってできる大したことではない。なのに自分がこうも悲しいのは、それを言ってくれなかったこと。年上が年下を口止めをするようなことさえあったこと。それを当人たちと話し合ったところ、1名を除いては理解してくれたが、一番の年長さんがなかなか受け入れてくれなかったからだ。
年上のスタッフたちは、いつか自分たちがここを去る時を思い、後輩たちがよりよいリーダーになるよう育てなければならない立場なのに、なんということか。自分の言葉は仲間たちに通じないのか? と言うのです。
それを話すうちにも、彼女はその時のことを思い出し、また自責の念から涙をぽろぽろこぼしてしまいます。

とはいえ、くだんの年長さんの立場で思うと、自分より年下のリーダーにどこか素直になれない事もあるでしょう。仕事の落ち度でもなく、終業後の遊びの中の小さなアクシデントと気楽に考えてしまったのかもしれません。嵐のおかげで少し気温も下がって心がうきうきしたのかもしれません。
一方、ジャックさんの立場でみれば、スタッフの大切な私物を保管するロッカー室によい環境を保つことは切実。さらに年上のスタッフの背中を常に後輩たちが見ていることを思えば、確かに年長さんの行動はいささか軽率だったことは否めません。
また、アクシデントの後、庭師のバーンさんに「ごめん! 屋根が少し壊れちゃったのよ~」と即座に伝えていれば、(我が社のマンゴーの美味しさは誰もが知っていますから)食い気のあまりの笑い話で終わらせることもできたのは確かです。
ジャックさんの責任感と少女のような純な気持ちを愛おしく思いつつ、誇り高くそれ故ちょっと素直になれないところがある年長さんの胸の内も私は少し苦く切なく思い浮かべていました。

ひとしきり話しを聞き、日々のジャックさんの新人スタッフへの教育の尽力がいかに素晴らしく、誰もが彼女をどれだけ頼りにし、愛しているかを思い出させたり、年長さんのちょっと複雑で不器用な胸の中を一緒に想像してみたりしていると、ジャックさんの涙は明るいものになり、最後にはすっかりいつもの柔和で晴れやかな表情が戻ってきました。
ジャックさんの相談の通訳についてきてくれた日本人スタッフも、普段は現場でジャックさんと行動を共にすることも多く、通訳という立場を越えてすっかりジャックさんの気持ちを受けて、泣いたり笑ったり、最後は抱き合ったり、それを見ているこちらまで心が柔らかく洗われるような気持ちになったのでした。

どんな事件も、次のより良い一歩の力に変えるジャックさんの明るさ、素直さ、そして解決の具体的な方法を考え実行する力には舌を巻くのですが、この時私が一番驚いたのは、
ジャックさんが
「私が年をとって働けなくなってここを去った後でも、ここがずっと誰もが気持ち良く働ける良い会社であり続けるように」
と言ったことでした。

まだ30代のジャックさんが、そんな先のことまで考えながら現場をまとめていること、そしてこれからも長くここで働いて行こうと決心していることに、私は、この人はいつそんな大きな心と遠い眼差しを獲得してきたのだろうか? と、その成長と心の深化、そんな人と十余年一緒に仕事をしてこられたことに感謝するよりなかったのです。

ジャックさんが大泣きした翌日、チェンマイは雨季の兆候が明らかとなり、肌を刺すような暑気は去って、甘く感じる湿度を含んだ風が時折吹き、暑さに乾き固まっていた心も体もほとびるような心地よい日になりました。
午後には気持ちの良いスコールも降って、タイの大衆新聞「タイ・ラット」オンライン版の天気予報では、北タイは今日より雨季入りしたと報じていました。折しも満月でワン・ヴィサカーブチャー、仏様の誕生日であり、天なる甘き露が降ったというタイではおめでたい日の前日。
あまりに符牒が合いすぎて、なんだかまるで、ジャックさんの柔らかな心と涙が、乾いたチェンマイに雨の季節を呼び寄せたかのようでした。

さて、暑さに乾いた心や体を慰撫する雨季ですが、これからタイは気温がぐっと下がって、暑気の疲れがどっと出て体調を崩す人もいますし、紫外線や熱による肌のダメージが現れる人も少なくありません。心地よい季節の始まりですが、身体や肌のケアが肝心な時期でもあります。
そんな時には、アルガンバームを使ったリンパマッサージで身体を温めながらほぐすのが一番です。
また、アルガンバームはマルチクリームですから、ガスールのクレイパックで過敏になった肌を冷やし落ち着けた後、頬や目元の日焼けのダメージによる乾燥やシミが気になる部分に薄くなじませるのもおすすめです。

ガスールは、全身洗浄に使えばデオドラント効果もありますし、湿気や皮脂による肌のベタつきも軽減し、リフレッシュしてくれます。重曹とガスールを入れたお風呂で身体に溜まった熱をほどよくリフレッシュするのも心地よさそうです。
雨季の始まり、アフターサンケアにぴったりなガスールとアルガンバームが入っているkamakura setが手元にあると、この季節の万事がデリケートな変わり目も、肌と心をリフレッシュするホームスパが楽しい時分となるのではないでしょうか。

写真は、会社の庭で採れたマンゴー。こちらでは若い青いマンゴーも好まれます。ほの甘く上品な酸味と松葉に似た香りは爽やかで、塩と砂糖と唐辛子を混ぜた薄紅色のパウダーをまぶして食べるのが定番です。(花岡安佐枝)