2014年11月4日火曜日

モロッコ出張 business trip to Morocco

会社のスタッフたちにしてみれば、私はモロッコで遊んでいるようにしか見えないかも知れませんが、それはFB等で楽しげな写真ばかりアップするから。今回の目的のひとつは、私たちの製品の原材料でもあるアルガンの実の植生、収穫、圧搾、集荷などの現地調査です。仲買の人たちや実から胚を取り出す女性たちの作業、オイルを圧搾する人々、などなど様々な人々に会い、話を聞き、現場を訪れています。
今日はアルガンオイルの仲買を行うアガディールのファウジさんに会いにゆく。ファウジさんは大学では医学部で医者を目指したが、途中農業に興味が移り(本人いわく「単位が足りなくて」と自嘲する)、農学部に入り直す。卒業後は政府の仕事に従事したが(モロッコでは大学を出た技術者の多くは国の仕事に従事するのだとか)、その後「プライベートの仕事」をしたくて自分で生産農家に対するオーガニック農法による農業指導などにあたり、そのなかでアルガンオイルの製造も手がけるようになったとのこと。
寡黙ながらも、話が専門領域に及ぶと生き生きと語り出す非常に知的な人物で、ヨーロッパなどに自身の製品を輸出するなどビジネスマンの面も併せ持つ。近年アルガンオイルによって貧しい農家には現金収入の道を開いたが、こうした技術者、農業指導者、ビジネスマンの存在はやはり重要。


彼の会社で話を聞いたあと、自宅へ昼食に招いてくれた。新興住宅地の4フロアのタウンハウスで祖母と両親、弟、二人の娘とで住んでいる。娘二人はモロッコ語の他、フランス語と英語を解す(上の写真は私たちのモロッコのパートナー ラシッドさんと今回ドライバーをしてくれたハリッドさんの二人に囲まれた下の娘さん:さながら美女と野獣)。
こちらの人々は生活も仕事も一族で行う場合が多く、家も大人数で住む。私たちが通された応接室と思われる部屋はかなり広く、テーブルが6卓。壁ぐるりにソファが設えてある。こちらではもてなしも男性が一切執り行うため、料理の配膳から後片付けまで全てファウジさんと弟の男二人でやっていた。
外はかなり暑く日差しも強かったけれど、家の中はかなり涼しい。ぶ厚いレンガの壁は外の熱気が室内に侵入するのを防ぎ、レースのカーテン越しの窓は直射日光を防ぐ。エアコンなど無くてもひんやりと涼しい。

アルガンの実の仲買人にはいくつかのタイプがあります。ひとつは大学を出て生産者の農業指導にあたり、品種や品質、圧搾技術の改良と研究を日々行い、生産者の収入改善を図りながら日本や欧米のコスメティック企業を相手にビジネスを行うMr.ファウジのタイプ。

そしてもうひとつのタイプが、ウィッサエラ郊外の村の仲買人ハッサンさん。彼は村で雑貨店を営みながら周辺の村の女性たちが持って来るアルガンの実を買い受ける。多くの現金を持たない彼女たちは、アルガンの実と交換したお金で日用品を買う。アルガンの実はお金の役割も果たしており、実を収穫するとハッサンさんの倉庫に預け、生活に必要な量だけ換金して行く。だから村には銀行はない。
ハッサンさんは村の誰からも愛され信頼され、村のため自分の家族のために様々な仕事をしてきた。かつては街までの交通手段を持たない村の人々のために、自分の車で乗り合いバスをやっていたこともある(もちろん運賃は貰うが都市部の相場では全くない)。年期の入ったこの75年式フォードのバンは、車というよりもはや民具。私たちが移動に使ったメルセデスのワゴン車は、なぜかハッサンさんの村で彼の旧型フォードに乗り換えた。その先の未舗装の悪路に入り、車交換の理由はすぐに判明、必死に手摺りに掴まりながらハッサンさんの家へ向かう。

色々見学させてもらいつつ話を聞き、昼食を振る舞われる。前菜のモロカンサラダから山盛りのパン、自家製の蜂蜜、ヨーグルト、そして定番のミントティ。もうお腹いっぱいと伝えるが「いやいやデザートがあるから食べてゆけ」と出て来たのは大きなタジン鍋に山盛りのクスクス。これはデザートじゃない、主食だろう! と順番の間違いに一同苦笑するが、振る舞われたものは口を付けねばならない。満腹だけれどでも美味しい。そのあと更に、石榴やオレンジ、バナナにリンゴなどてんこ盛りのフルールが出てもう限界。とにかく客人をもてなしたい、振る舞いたいという気持ちは十分すぎるくらい伝わる。
帰りは車で8時間かけて海沿いのリゾート地アガディールへ向かう。移動の際も何度かハッサンさんから電話が掛かってくる。内容は大した用事ではない。「お土産にもらったあのお茶は旨いな!」とか「もう着いたか! 気をつけて帰れよ」とか頻繁に電話してくる。移動中ラシッドさんは歯痛で痛止めの薬を飲んでいたが、それを本気で心配した彼は「いい歯医者がいる。紹介しよう!」とのことだが、ラシッドさんはマラケシュの人間、300km離れたハッサンさんの村の歯医者には通えないのだ。
そういえば我々に対しても、「どこから来た?」との問いで「日本人だが普段はタイに住んでいる。今回もタイから来た」というが世界地理に疎いらしい。「タイはどの辺だ? 遠いのか?」というので「ずっと遠くだ。東南アジアだ」とラシッドさんがiPhoneのGoogle Mapで説明する。「ああ、そこなら知っている! おれの姉貴が住んでるよ」とのこと。しかしラシッドさんによるとハッサンさんのお姉さんが居るのはリビアだという。モロッコ以外の外国はみんな遠いところであって、細かいことは頓着しない。彼の愛車にはなぜかAppleのステッカーが貼ってあるが、MacもiPhoneもiPadももちろんない。
彼は村の皆に頼りにされ、イスラムの教えを守り、村人と私たちのために良いアルガンの実を集めてくれ、子供たちと両親と祖父母を愛し、楽しく豊かに暮らしていた。愛すべきハッサン。

今回ラシッドさんに紹介してもらったファウジさんとハッサンさん。共に対照的な二人ですが、どちらも大切な私たちのパートナーとなりました。(Jiro Ohashi)