2013年10月2日水曜日

木の実のクリームは木の実に cream into the nut shell

今日は、ちょっと変わったアメニティの中味についてご紹介です。
これは何でしょう?
身体を外部から守るデリケートでフラジャイルな角質層・皮膚に見立てたトレーシングペーパーの向こうに透けて見える2つの貝殻のようなもの。
これは、日本でもおなじみのアルガンクリームです。

原料はビタミンEの多さ故に、モロッコでは若返りのオイルと呼ばれ、肌に張りを与えるアルガンオイルと、北タイ特産の果物ラムヤイの花で養蜂して得られるミツロウだけ。シンプルで使い心地も効果もリッチなクリームです。ゆえに一回の使用量は少量で充分。熱帯のリゾートの短い滞在に合わせて少なめの量をアメニティでは提供しています。

とはいえこのクリーム、シンプルでちょっぴり濃厚な手触りだからこそ、大変便利なものです。
目元や手足の感想しやすい部分に塗るごく基本的な使用法の他に、飛行機の中での乾燥防止、リップクリーム、毛先をまとめるヘアワックス、ハンドクリーム、ネイルクリーム、眉の形を整えるワックスなど、全身に使えるとても便利なもの。使い慣れると、短い滞在でもこの量では足りなくなってしまうかもしれませんから、近い将来リゾート内のショップでの販売もできたらと考えている私たちです。

さて、このクリームを特徴づけているのは器です。正商品ではランパーンで作ってもらっている陶器ですが、これはまた一層特別です。
タイ語でクラボックと呼ばれる木の実の殻を少しだけ磨いて器にしているのです。
クラボックはこの周辺に良く育つ野生の樹木で、木の実は胚をローストしてアーモンドのように食べます。市場でよく売られる身近なもので、地元の人の現金収入源でもありますが、木の実は焚付けくらいにしかなりません。それを、SAL Laboratoriesのカーンさんのアイデアで器にしたのです。

この木の実の殻を器にするアイデアですが、実はアイデアの素となる前例があります。
数年前、私たちは貝殻の器に入れて日本でサンプル配布をした事があるのです。
このクリームは、オイルもワックスも人が手を使って丁寧に作ったもの。商品の器もやはりハンドメイド。店頭サンプルなどは、使用環境を考えやむをえずプラスティック容器を使用していますが、丁寧に手で作られた素材とクリームはそれに相応しい器に入れて届けたいのがSAL Laboratoriesのコンセプトです。
そこでお客様に直接手渡せるならと、貝殻を器にしたサンプルパッケージを考えたのでした。

貝殻には、生命を包む形、女性の昔の口紅の器、ヴィーナスの誕生の乗り物、生命の源であり時に恐ろしい海(3.11を経て、私たちにはとてもシンボリックな存在です)などさまざまなイメージがあり、自然や伝統に学ぶという私達のコンセプトをその小さなフォルムに内包する大きさがあるものでした。
そしてコンセプトのみならず、この製造に関わる事で、思わぬ才能が開花したり、ますます成熟・成長したスタッフも多く、様々な面で大切で印象深い製品になったと言えます。

そして今年。
「今回は、自分たちでアメニティのパッケージを考えてみて下さい」という少し突き放した私のお題に返ってきた答えのひとつがこの木の実の器でした。
形は美しいものの、うわー、またこの殻の調達を考えないといけないのか……。と内心冷や汗の私の顔色を察したのでしょうか。
「大丈夫です。もう殻を入手できる人も何人か見つけたし、ノイちゃんが、近所のカラオケ屋の庭に大きな木が生えているのを見つけたから、私たち自分で拾ってもいいなって、他にも生えているところを知っているスタッフたちも居るみたいなんです」
と、ジャックさんとちょっと自慢そうなノイちゃん。
ほっとしつつ、二人の成長ぶりにうっとりしながら、それにしても、大きな木が生えている半分オープンエアの田舎のカラオケ屋さんってどんなだろう?? と、変なものを頭の隅で想像してしまいました。

正直なところこのプラン、最初は若干、二匹目のドジョウという気がしなくもありませんでした。
しかし、自然の素材を使う。その形を美しく感じ、考えて器とする見立ての眼差し、そして入手先の確保という現実面も配慮する。
何かを作り出す時の段取りや眼差し、方法をしっかり自分のものにしているのが伝わり、決してそれが、単なる最初の成功の模倣では無いことを実感し、充分魅力的なものになると感じ、やりましょう! というゴーサインを出したのでした。

しかし、このあと私たちは、カーンさんたちのこの眼力と行動力のおかげで、アメニティのプロトタイプをプレゼンテーションに出かけた「ほしはなヴィレッジ」で、とてもドキリとする体験をする事になったのでした。
それについてはまた改めて。(Asae Hanaoka)