2015年1月28日水曜日

新棟のこと our new building

去年の5月からスタートした新工場棟の建設工事がようやく終わり、1ヶ月ほど前から稼働を始めました。建築の知識も何もない私が担当者となり、曲がりなりにも無事完成させることができたのは、周りの沢山の方々の協力があったからこそでした。ひと段落したところで振り返ってみるとこの想いがますます強くなります。
新棟建設の目的は、手狭になってきた既存棟で作業をする不便さの解消と、製造工程で舞うガスールの粉塵をいかに屋外に出すか、の2点でした。スタッフの数も増え徐々に狭くなってきていた既存の工場棟。限られた空間の中でいかに仕事をするか‥‥。スタッフたちが知恵を出し合い、今あるスペースを最大限有効に使ったレイアウトでしたが、時には石鹸をつくるスペースでガスールの作業をすることもありました。日を経るうちにそういう状況が常態化していき、みんなも不便さを口にすることはありませんでしたが、客観的に眺めるとあちらこちらで分かれて作業をするため、やはり動線もよくありませんでした。
それに、ガスールの検品の際に出る細かな粉塵、これが意外と厄介で、暑さを和らげるため回しっぱなしの扇風機に煽られ、離れたオフィススペースのパソコンやコピー機器の上にいつの間にか降り積もり、さらに床の細かい隙間に入り込んでは掃除をするスタッフの頭を悩ませていました。

暑がりのタイ人に必要なエアコンの容量は? 作業机の大きさは? 作業スペースのレイアウトは? などなど、イメージを形にすることの難しさ・細かさに呆然とし、何から手を付けていいのか分からなくなっていた頃、いくら私が机上で頭をひねってもできることには限界があることに気づきました。「それなら、この場所を使う当事者にアドバイスをもらうのが一番」と、仕事中の製造リーダーたちに声をかけて、意見交換をしたあの日から工場建設が本当の意味で始まったように思います。
それまでは「経験は無くても、それでも指示を出していかなくちゃ」と、重責と不安で暗くなりがちでしたが、この時の意見交換でドアの形状や蛇口のタイプなど、私には思い至らなかった現場の要望がたくさん上がってきました。このことがあってから「私はあくまでも仲介の立場、建設側と使う側の橋渡し役に徹しよう」と気持ちが切り替わりました。
図面を引いてくれた設計士さんも気の長い方で、何度も打ち合わせをしてその度に細かな変更をする私たちの要望どおりに図面を書き直してくれました。

工事が始まった8月末には休日の早朝だったにもかかわらず、多くのリーダーたちが地鎮祭に来てくれたのも嬉しい出来事でした。基礎工事が始まってからも気づいたことを教えてくれ、私がそれらを現場監督に伝えると、「スタッフのため、会社のために頑張るあなたのために僕たちも全力を尽くします」と現場監督が笑顔で答えてくれたのも強力な味方を得たようで励まされました。

建設請負をお願いしたタイ人とアメリカ人のカップルも素敵な二人でした。体調の優れない奥さんに代わって旦那さんが頻繁に工事の進捗写真を撮りに来てくれました。このお二人にはもうすぐ待望の赤ちゃんが生まれます。新棟の建設と共に芽生え育まれてきた命、何か縁があるように思えて仕方がありません。
ジャックさんは、現場監督と製造現場との狭間で揺れ動く私に対して、いつも製造第一の目線でアドバイスをくれ、何度も基本にたち帰らせてくれました。ジャックさんのご主人のお仕事がたまたま建築設計のサイトマネージャーということもあり、終業時に彼女を迎えに来たご主人をつかまえて、図面の見方や材質の確認を一緒にしてもらいました。綺麗な夕焼け空が次第に暗くなり、薄暗い電灯の下で彼のお腹がグーグー鳴っていたのが懐かしく思い出されます。
そしてバーンさんは、何と言っても既存の工場棟を建てたご本人です。打ち合わせの同席を頼むと快く引き受けてくれ、休日も関係なく進む建設の進捗を現場で確認してくれました。建設工程が細部に及ぶにつれ、ついつい厳しい(時に過ぎる)目で意見を出す私たちと現場監督の関係がギクシャクしそうな時にも、絶妙なアドバイスをしてくれたのもバーンさんでした。

このようにたくさんの方々の協力のもとに出来上がった新棟です。初めて使う日、私の一番の懸念はスタッフたちにとって快適であるかどうか、働きやすい環境であるかどうか、でした。はじめのうちは広い空間を持て余しているように見えなくもありませんでしたが、1ヶ月もすると作業動線もはっきりし、物の置き場所も定まってきてだんだんしっくりとしてきました。
既存の工場棟の方もガスールチームの空いたスペースを使ってオイルの保管や苛性ソーダの計量もできるようになりました。今までのように倉庫を行ったり来たりする必要もなく、通路で作業をしなくてもよくなり、より石鹸作りに適した場所に生まれ変わりました。
先日、石鹸の作業がお休みの時に既存棟の室内に入ってみました。石鹸チームのみんなはガスールの手伝いに新棟の方へ行っていて、日中にもかかわらず部屋には誰もいません。シンと静まった部屋を見渡すと、たった1ヶ月前の賑やかな光景が頭をよぎります。「一枚のビニルカーテンを隔てただけの空間で石鹸チームもガスールチームも一つところで作業し、大きな声で呼ぶと伝言ゲームのように端の人にまで声が届いていたのも、あれはあれでいい空間だったなぁ」としばし感傷に浸っていました。

私だけでなく、みんなそれぞれに感じていることがあると思います。ともあれ、みんなが今まで以上に快適に働けるように建てた工場です。使う人がいてこそ、工場は生きてきます。これからはここを使うスタッフたちが日々たくさんの想いを込めて、私たちらしい工場に成長させていってほしいと願っています。(Momoko Katsuyama